状況証拠は真っ黒だが…
状況証拠は真っ黒。それなのに上田は「犯行時間には現場にいなかった。なぜ逮捕されるのか分からない」と関与を否定した。
「変装していた犯人の顔を見た奴がいるのか。レターパックやネックウォーマーは事件前に家から盗まれていたものだ。シリコンマスクは果樹園でカカシを作るために購入したものだ」
上田がここまで強情なのにはワケがある。7年前、上田は地元で相次いでいた通り魔事件の犯人として逮捕された。いずれも自転車の男が追い抜きざまに被害者の頭や顔を狙って凶器で殴ったというものだった。
ジョギング中に首を切りつけられた大学院生の男性(22)、後頭部を殴られて全治1カ月の重傷を負った会社員の男性(24)、傘で殴られて顔の骨を折り、全治3カ月の重傷を負った女子大生(18)もいた。
警察が警戒する中、上田は公園内の遊歩道でアルバイトの男性(28)をハンマーで殴ったという殺人未遂容疑で逮捕された。
上田は自宅前で刑事に取り囲まれた際、ズボンのポケットにアイスピックを隠し持っていた。また、自宅のパソコンには犯行現場の地名や凶器の種類を入力して検索した跡もあった。
だが、このときも「どういうことか分からない」と一貫して否認。裁判で争った結果、「犯人と推認される事情はあるが、その証明は十分とは言えない」として、無罪になったのだ。
「深夜に一瞬だけ見た被害者が犯人を識別できたかどうか合理的な疑いが残る。警察の面割り捜査で、捜査員が顔写真30枚の中に被告人の写真を含めなかったと証言したのは、被害者が被告人の写真を選び出せなかった事実を隠す目的だった可能性がある」
検察側はこの判決を不服として控訴したが、二審判決も同じだった。これで上告を断念。上田の無罪が確定した。上田は冤罪のヒーローとなり、警察批判の急先鋒となった。
