ドラマ「あんぱん」(NHK)で描かれた主人公・嵩(北村匠海)の伯父・寛(竹野内豊)の死。嵩のモデルであるやなせたかしの自伝などを読んだライターの村瀬まりもさんは「家長が子どもの進路を決めることが多かった戦前の日本で、寛は子どもの自主性を尊重した、まさに理想の父親だった」という――。

写真=時事通信フォト WOWOW開局30周年記念「連続ドラマW 東野圭吾 さまよう刃」の完成報告会に出席した俳優の竹野内豊さん(=2021年5月13日、東京都千代田区の東京国際フォーラム) - 写真=時事通信フォト

「あんぱん」の優しい伯父が急死、主人公の嵩は泣き崩れる

「伯父さん、ごめんなさい。怒ってるだろうな……」

「これまで育ててもらったお礼も、何も伝えられなかった。伯父さんのこと、一度もお父さんと呼べなかった。もう会えないんだよな」

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朝ドラこと連続テレビ小説「あんぱん」(NHK)の第9週1話(通算49話)で、主人公・柳井嵩(北村匠海)の伯父であり“育ての父”である寛(竹野内豊)が、亡くなった。54歳の竹野内豊が演じる寛はダンディでかっこよく、優しく子どもたちを励ます理想的な父親だと、ドラマファンにも親しまれていたが、突然の悲しい別れとなってしまった。

嵩は実の父・清(二宮和也)に早く死なれ、美しい母・登美子(松嶋菜々子)には去られ、父の兄である寛の家に預けられて成長した。そこには先に寛の養子になっていた実弟の千尋(中沢元紀)もいた。高知の町医者である寛は、医院を継がせるために2人の甥っ子を引き取ったのかとも思われていたが、絵は得意だが勉強は苦手な嵩は東京芸術高等学校へ。千尋は成績優秀だったが帝国大学の医学部ではなく法学部へ。跡継ぎにはならなくても、寛は、兄弟の決めた進路を否定せず学費を出し、精神的にも金銭的にも援助してくれた。

東京でデザインの学校に通う嵩の元に届いた「チチキトク、スグカヘレ」という電報。しかし、卒業制作の最中だった嵩は、この学校に進ませてくれた寛のためにも、と卒業制作の絵を完成させてから、故郷の高知県へと急ぐ。しかし、伯父の家にたどり着いた嵩が見たのは、既に息を引き取った寛の姿だった。