高校何年生の時だったか、内山は「東大文一に現役合格できなければ自殺する」と高らかに宣言した。周りはハイハイという感じで聞き流していたが、私は内山が本気で言っているのだということがわかった。おそらく私以外の者もわかっていたと思う。冗談でそんなことを言う人間ではないのだ。彼は発言こそナチュラルに過激だが、目立ちたがりでも何でもない素直で正直な人間だった。後に聞いたところ、彼は自分の家族にも「東大文一に落ちたら死にます。ここまで育てていただきましたが、その時はすみません」と話していたらしい。

東京大学 ©AFLO

 彼はそこまで余裕の成績ではなかったので、死の可能性というのはそれなりにあった。彼は東大文一に受かるためにどうすればいいかという戦略を細かく立てており、その形相はつねに鬼気迫りまくっていた。そのうちどうやら「内山メソッド」とも言うべきものが彼の中で完成したようで、そこには高校からの東大文一対策だけでなく、そこから逆算して、自分に子供ができた時にどうすれば東大文一に入れられるかという計画も含まれていた。

 まず神戸大学以上の大学出身者と結婚するところから始まり(彼は、国公立出身者でかつ社会を受験で2科目使っている相手としか結婚しないと言っていた。大学を出てからはそんな話はしなくなったし、見ていてもその条件は取り払われたようだが)小学校一年生から公文式に入り、そこで四年生までにどれだけやって──みたいなことを聞いたが、詳細は忘れた。ざっくりまとめれば「自学自習できる力をどれだけ早期に身につけるか」ということを言っていたので、もしかすると今で言う武田塾の方向性に近かったのかもしれない。

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 とにかく内山メソッドの完成によって彼はさらに自信を持ち、「計画を立てて然るべき時間を費やせば、猿でない限り必ず東大文一に合格できる」と豪語するようになっていった。これまた普通にそう言うので、ちゃんと計画を立ててやっているつもりなのになかなか成績が上がらない人にしてみれば「俺は猿ってことかよ!」という話になるのだが、まあ、猿ということなのだった。