新しい執筆スタイルはサスティナブルに!?
――この作品を書き上げる10年間の間、ご自身が大学院を修了したり、コロナがあったりで執筆スタイルに変化はありましたか。
阿部 自分の作品を世に出すには、ある種の覚悟を持たなければならない、という姿勢自体は全然変わっていません。ただ、生活スタイルは明らかに健康的になりました(笑)。大学院との二足の草鞋を履いていた頃は、書ける時にとにかく書くといった具合で、一晩で原稿用紙何十枚分も書いて、そのあとの2、3日は逆に動けなくなるような、命を削るような書き方をしていました。栄養は学食で摂る、文春さんに泊まり込んで睡眠をとる、といったような感じでしたね。
ただ、大学の博士課程は作家との兼業が通用するほど甘いところではなかった。私の力不足に関しては悔しい部分もありますが、そこを手放したことで、作品に集中出来るようになったのは、結果的に正解であったと思っています。今は、博士課程に挑戦してよかったし、諦めてよかったという両方の気持ちでいます。
諦めたおかげで、無茶な書き方も変えることが出来ましたしね。生活基盤が整ったことや、作家仲間のアドバイスもあって、構想さえ整っていれば、数日に分けて少しずつ書くことも可能ではと気付いたんです。それだったら一気に何枚も書くより、数日に分けて書いた方が絶対健康的ですよね。
これまでは刊行スケジュールに合わせられるかは、博打みたいなものだったんですよ。私自身、いつ突然書けるタイミングが来るかは分からないし、間に合うかも分からない。最後に帳尻を合わせられるかは出たとこ勝負という、編集さん泣かせな作家でした。でも、今は構想さえしっかり出来ていれば書き上がりの目途が立つようになってきました。10年前に同じアドバイスを受けてもきっと同じことは出来なかったでしょうね。いろいろと経験が出来たからこそ、今の形に辿り着けたのだと思っています。
