いろいろと調べてみると、アール・ヌーヴォーというものは1900年頃の成立に至るまで、新古典主義だったり、ロココだったりグロテスク、さらに宗教美術も含めて、長い時間をかけて築かれた文化の蓄積から、当時の人々が己の好みの部分、魅力的だと感じた部分を選び抜いて、言わば「いいとこ取り」をして出来上がった終着点のような気がします。その文化の中には、オリエンタリズム、シノワズリ、ジャポニズムといった、西洋的な視点から見た東洋的な要素も含まれているわけです。それに気付いた時、アジア人である私が、私なりの解釈で描いても許される余地がアール・ヌーヴォーにはあるのではないかと思いました。
 
 だからこの作品は、登場人物たちの名前はカタカナなので一見西洋風ファンタジーに見えますが、実は東洋的な要素がふんだんに入っている物語だと私は思っているんです。 

4人の女性が寵愛を競う後宮ものが再び!?

――本作のストーリーは、主人公のナオミが、風の精霊を統べる皇帝から「私の寵姫の座を狙ってみないか?」と誘われ、後宮に入るところから大きく動き出します。しかしすでに皇帝には皇后と2人の愛妾がいるという設定は、4人の美姫たちが后の座を競う『烏に単は似合わない』と共通点が多いのでは?

阿部 まったく否定出来ませんね(笑)。私はそうした要素が大好きなので、同じモチーフを性懲りもなく書いてしまいました。キラキラした女の子や、格好いい女の子たちがわちゃわちゃしているのが、根本的に好きなんですよね。同じような後宮ものをまーた書いているよと言われちゃうかもしれませんが、まあ、自分の中では明確に違うものですし、好きなものは何度書いてもいいでしょと思っているので、たとえ2回でも3回でも、納得いくまで書いてやろうと今は開き直っています(笑)。

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 今回は四大元素というモチーフがあったので、それを表現するにふさわしい、高位の風の精霊である皇后イリス、火の精霊で第一寵姫フレイヤ、水の精霊である第二寵姫ティアを、素直に自分好みに書きました。皇帝である蜻蛉帝シリウスや孔雀王ノアに関しては、アール・ヌーヴォーで好んで描かれた動植物のモチーフから採りました。ルネ・ラリックの作品などを参考にして、蜻蛉の精の作品からシリウスのイメージを膨らませたり、雄であることを誇るものの象徴として孔雀を選んだりしたわけです。
 
 舞台となっている「鳥籠の宮」「巣の宮」にしても、精霊達にしても、参考とさせて頂いたものはたくさんあります。作者に見えないものは読者にも見えないと思うので、書き始める段階で、自分ではっきり光景が見えるようになってから、描写をするように心がけたつもりです。