続きは書きたいし、「八咫烏シリーズ」の終局も…
――いよいよ『皇后の碧』が出版されて、今後の構想などはあるのでしょうか。
阿部 まず、『皇后の碧』に関して言うならば、もう原稿は手を離れているので、「あとは野となれ山となれ」といった感じですね(笑)。結局のところ、作家に出来るのは原稿を仕上げるところまでで、私は私に出来るタイミングで、全力をすでに尽くしました。校了した時点で、作品にしてあげられることはもう何もありません。どんなふうに評価されるかは、もう私にはコントロール出来ない次元にある話ですから。
有難いことに「続編は?」というお声も頂いていますが、この世界観であることを利用したどんでん返し的なギミックはもう期待出来ないですし、そもそも、この本が売れないことにはどうにもならないので(笑)。とにかく、今は動向を見守っている感じです。もし続きを書かせて頂けるのであれば、この世界を舞台にした物語の構想自体は結構あります。時代ごとの設定もいろいろありますし、違う種族側からナオミ達を見るといったテクニカルなこともいくらでも出来ますしね。10年かけて築いた世界には愛着がありますし、続きを書けたら嬉しいです。
ただ、この世界に限らず、他にも違う世界観のファンタジーの構想はあるので……「八咫烏シリーズ」が完結した後、文春さんで書く予定のシリーズもありますしね(笑)。何をどういう順番で出すか、版元さん側のご都合も悩ましいですし、自分の体力的にもどうなのか……専業になったので、コンスタントに1年に2冊くらいは書けるかもしれないという期待もあったのですが、無理をして生活も仕事も空中分解しては元も子もないので、とにかくその時々の最善を尽くし、自分が良いと思えるものを書けたらと思っています。
この作品のPR活動の時期を終えたら、さっそく「八咫烏シリーズ」の打ち合わせがあることも分かっています! 6月中旬以降の予定は、編集さんから言われないうちに勝手に空けているので(笑)。私としては意図せずして「八咫烏シリーズ」を終える直前で『皇后の碧』を世に出す形になっちゃいましたが、今更言うまでもなく、「八咫烏シリーズ」の終局に手を抜くつもりは一切ありません。まあ、今後は自分の筆力とプライベートを見極めて、計画的に書いていけたらいいな……っていう、希望的観測ですね(笑)。
阿部智里(あべ・ちさと)
1991年、群馬県前橋市生まれ。早稲田大学文化構想学部在学中の2012年、『烏に単は似合わない』で松本清張賞を史上最年少で受賞。2017年、早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。2024年、デビュー作から続く和風大河ファンタジー「八咫烏」シリーズで第9回吉川英治文庫賞を受賞。2025年『皇后の碧』刊行、ほかの著書に『発現』など。
