すぐには消えなかった「痩せないとかわいくない」という考え
――彼氏と別れた後は過食も収まったのでしょうか?
吉野 いや……。「痩せないとかわいくない」「かわいくないと愛されない」という長年刷り込まれた考えはすぐには消えませんでした。だから、過食もなかなか止められなくて。
次に付き合った人は、私の見た目や体型に何も言わない優しい人でした。「どんななおも好きだよ」と言ってくれたんですけど、自分に自信がないからその言葉を信じられず、すぐに別れてしまいました。
――人が認めてくれても、自分がそれを受け入れられなかったんですね。
吉野 その男性と別れた後に今度こそ本気で摂食障害を治療しようと思ったんですが、専門の病院はどこも初診が半年以上待ち。その間も過食の症状はどんどん悪化していく。あの頃はどうしたらいいのかわからず、途方に暮れていましたね。人と関わるのが怖くなってしまい、仕事も1人でできるものを探すようになりました。
――その状態からどうやって上を向いていったのでしょう。
吉野 何度かの転職でついた、タレントさんのプロフィール集を作る出版社の仕事がきっかけでした。私の担当はタレントさんたちの写真を整理することだったんですが、膨大な数の写真を見てるうちに、「ふくよかな女性でも笑顔の人もいるんだな」とふと気づいたんです。
それまで私は、太っている人に対してネガティブなイメージしか持っていませんでした。でもあらゆる年齢、体型、外見の人の写真を見る中で「太っていても幸せに生きてる人がいるかもしれない」と思ったんです。
――それはどんな影響があったのですか?
吉野 まず、長年続けてきたダイエットをやめました。それまで食べ物を選ぶ基準はカロリーだけでしたが、「カロリーが高くても食べたいものを食べよう」と。好きなものを食べたらさらに太るんじゃないかという不安もあったんですが、でもいざ食べたいものを食べるようになったら、心が満たされて過食衝動が収まってきたんです。
――好きなものを食べる方が健康的だった。
吉野 それまでは自炊する時に太らないように砂糖や油の量を減らしてたんですが、それもやめました。レシピから砂糖や油を減らしたら、当たり前ですけど“なんか違う”料理ができて美味しくないんですよ。なので自分は料理が下手だと思っていたんですが、レシピ通りに作るとちゃんとおいしいご飯ができるんです(笑)。小さなことかもしれないけど、「私もやればできるんだ」と自信にもつながりました。
――食べることが楽しくなったんですね。
吉野 毎日必死に記録してた体重も計らなくなりました。半年くらい経ってから久しぶりに体重計に乗ったら、なんと6キロも痩せていたんです。好きなものを食べたら太ると思い込んでいたのに、実際は逆でした。
――ダイエットを止めたら痩せた、と。
吉野 ストレスが軽減されたからだと思います。「痩せなきゃ」という強迫観念から解放されたことでストレスが減り、過食もなくなった。「痩せていることが全てじゃない」「太っていても幸せに生きられる」という当たり前のことに、20代半ばでやっと気づけたんです。

