ビジネス思考は子育てと最も相性が悪い
おおた もう一つ。あえて指摘させてもらいます。ホームページにある平岩さんのメッセージ動画で、「1600時間の放課後を活用しましょう」って言っていたのもひっかかりました。都市開発で空き地をどうやって活用しようか、みたいな。放課後がそういう位置づけに見えちゃうのはちょっと残念だなって。言葉尻ですよ。ごめんなさいね。
平岩 おおたさんのレーダーに触れちゃったんですね。「活用」って言い方が、なんていうか大人目線っていうことですよね。キャリア教育も防犯教育も、なんでも学校にやってほしいとなっちゃっているので、学校以外の時間に目を向けましょうっていう、そんな意味合いを意図していました。でもこれからは、おおたレーダーを意識して、ちょっと気をつけます(笑)。
おおた 偉そうで申しわけございません……。普段ビジネスの世界にいる大人はああいう表現を自然に受け入れてしまうけど、そういう目で子どもを見てしまった瞬間に、子どものいまの充実よりも、この子が何をどれだけできるようになるのかとか、どれだけ成長するのかみたいな、先の成果を求めるマインドセットになってしまうと思うんですね。大人同士の作戦会議の中で便宜上「活用」という言葉を使うのはいいと思いますが、そのあとに、やっぱり子ども中心の表現に戻してあげないといけないと思うんですね。
平岩 気をつけます。大事な示唆をいただきました。
おおた NPOなんかが、自分たちの活動の成果をデータ化することをインパクト評価とかいいますけれど、これも両刃の剣ですよね。子どもたちから遠いところにいる企業さんなんかを説得するときにわかりやすいインパクト評価が役に立つとは思うので、ビジネス的なクローズなところでやっているぶんにはいいと思います。でも、企業とかお金をもってるひとたちを動かすためのロジックを、子育てしている当事者にまで一般化して広めてはいけないというのが、私の倫理観としてはあります。目標を掲げてそこにできるだけ効率的に進んでいくビジネスの思考は、子育てと最も相性が悪いものなので。将来のためにいまを犠牲にしていても疑問に思わなくなってしまう……。
「いま」が充実していれば成長は必ずついてくる
平岩 おおたさんは、ものすごくピュアに徹底されてるロマンチストだなと思います。
おおた いろんな利害を調整しながら事業をしている平岩さんの前で、勝手なことを言ってすみません……。
平岩 いやいや、それも大事なんですよ。「ロマンとそろばん」と言いますからね。でもやっぱり現実解も出していかなきゃいけない。それを仕事にしながら継続的に社会を変えるしくみができれば、私たちがやらなくても誰かがやってくれるかもしれない。そういうしくみを社会にインストールする発想に立つと、やっぱり説得しなきゃいけないひとが増えていきます。エビデンスの物差しを使うときもあるし、たった一人の子どものエピソードを使うときもあるし、そこはいろいろ使い分けつつということだとは思いますね。
おおた それはあくまでも目的に応じた個別の口説き文句であって、一般化して発信していいメッセージだとは思いません。事業者にはそこをふまえてほしいですね。
平岩 子どもの成長とか、活動の成果とか、非認知能力の獲得とか、そういうところに子育てのとらえ方がかなり偏重してきている現状に対して、「いや、いまの子どもたちがどう言っているか、ちゃんと聞こうよ」って軸を忘れちゃいけないと思います。
おおた 「子どもたちのいまが充実していれば、後先の成長とか能力とか考えなくてもちゃんと育つから大丈夫だよ」って、子育て中のみなさんに伝え続けなきゃいけないと思いました。食料を得なければいけない、生殖しなければいけない……みたいなことに縛られなくていいのが「子ども時代」です。人類は、ほかの動物たちに比べて子ども時代を延長することで、遊びから学ぶ時間を増やして、繁栄してきたわけです。それを大人の損得勘定で埋め尽くしてしまうのはもったいない。
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