平岩 まわりの子がいろんなことをやってる中で、何もできない子がいるのであれば、支援をすべきだと思うんですよね。ただ世の中全般的に、何かをやってたり、どっかに所属してないと価値ある時間にならないみたいなとらえ方は、以前よりも強まったなと思っています。予定がない日を怖がる感じは社会全体にあるなと思いますね。
おおた 貧困層ではない中流家庭の親御さんたちも、子どもの教育に関しては本当にギリギリのところでやっています。「この子はちゃんと生きていけるのか。非正規雇用にならないか」みたいな不安がものすごく強いから。この不安を解消しないかぎり、競争に勝たせるために何とか「差」をつくり出そうとする力は弱まらない。それがかつては「偏差値」でした。いまではそれが体験にまでおよんでいる。
平岩 目の前の対策も必要ですが、私たちは地道に根本解決に向けたしくみづくりをしていきたいと思っています。両方が必要ですね。
おおた 必要性については私も同意ですが、必要性を訴えるロジックを間違えると、競争社会や能力主義や自己責任論を強化する結果になることを私は懸念しています。
「成長」を求められる子どもたち
おおた そこで、あえて平岩さんに指摘したいことが二つあります。アフタースクールさんのホームページにイメージ動画が出てきますよね。あれを見たときに正直ちょっと違和感もあって。「成長」って言葉が連呼されていました。四六時中成長を求められたら、子どもからしてみたら鬱陶しいだろうなって。
平岩 学校は外的に目標を与えられる面があると思うので、放課後の時間は子どもたちの内発的な声から始まるといいんじゃないかと思います。一方で、やっぱり1年生から見ていけば、いろんな成長が見られます。その方向性がどこに行くかっていうのは私たちが決めることじゃないけれど、子どもたちがなりたい自分を少しずつ実現したり、クラスではなかなか発揮できなかったその子のいいところが放課後に発揮されたりということはすごくいっぱいあるので、そういうのを私たちは「成長」と称しているのかなと思うんですよね。
おおた 平岩さんたちが能力主義的なことを意図してないってことはもちろんわかりますが、一般的な大人たちが「成長」って言うときって、そのひとが望む方向に進むことが「成長」だったりするじゃないですか。あの動画を見た大人が、子どもたちを成長させなきゃいけないというマインドセットを強化してしまう可能性があるかなと感じました。
平岩 私たちも、ちょっともしかしたら、無意識に使い過ぎているのかもしれない。
おおた 「放課後」って言葉も改めて眺めてみると、不思議な言葉ですよね。学校ありきの言葉じゃないですか。生活の中に学校があるだけで、放課後こそが暮らしであり学びであり、人生そのものなのに、立場が逆転しちゃってます。
平岩 私たちのジレンマですね（笑）。
おおた 生活の大半が自由な時間で、そのなかに一日何時間か、みんなでそろって学びましょうねという意味で学校があるのなら、そこだけ我慢してなんとかやり過ごせる気持ちにもなると思うんです。でも、学校以外の時間まで有意義な時間を過ごしなさいって迫られたら、心を充電できなくて、学校に行くのも嫌になりますよね。アフタースクールの自由な空気が、アフタースクールだけじゃなくて、社会全体のスタンダードになっていけばいいと思います。
