女優になった日に沢山のものを捨てた。様々なことに苦しみ、あがき、乗り越えて、やすやす手に入れてきた。そうやって作り上げてきたものを易々と手放せるほど、大人ではなかった。でももうそれと同時に、「渡辺まお」に対して澄みきった前向きな思いもなく、 今抱えているものが執着のみであること、それが何よりも愚かであること、それは誰よりも私が理解していた。
だからこそ、少しだけずるい選択をとることにした。
休業を経て引退を決意、その決断は今でも…
夏の終わりに「写真集のクラウドファンディングが終わったら、休業してもいいかな」と社長に伝えた。もちろん引き留められもしたが、最終的に納得をしてくれた。次の春には「私」に戻る。それが一時的になるか、永久的なものになるかはそのときの決断次第だ。事態を先延ばしにしただけと思われるかもしれないが、すべての思考を放棄して何もしないよりはましだ。それからの日々は楽しかった。果てしもない道よりも明確なゴールが設定されている道の方が全力で駆け抜けることができた。
時は流れ、女優になって三度目の春がやってきた。私は休業し、「渡辺まお」と距離を置くことで、女優であった2年間についてまだ十分ではないものの、冷静に客観視できるようになった。結果として、引退を決意した。その決断は今でも後悔していない。
デビューする直前、女優になったらこれまでの私の人生につきまとうしがらみから逃れて、もっと自由になれると思っていた。しかし無我夢中で取り組む間に「事務所のために頑張ろう」「応援してくれるファンの期待に応えたい」「AV堕ちと言ってきた人たちを見返したい」ーー 色んな感情が渦巻き、藻搔いているうちに、無意識にも私は、自分で自分を泥沼の中に突き落としていたのだ。
ただ、そこで諦めるのではなく、苦しみから自分で這い上がろうと行動できるようになったことに対して「大人になったんだな」と感じている。だって、昔の私ならば、そうすればよいことを分かっていても、そうしなかったのだから。
もう少しだけどこにも話していない、過去と未来について辿たどっていくつもりだ。読者の皆さんには一緒に見届けていただきたい。
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