不思議なオーラに気圧されながら南へ。大きなビルの脇に何だか“小さな踏切”が見えた

 いずれにしても、これだけの規模の繁華街を抱えている町は、いくら粒ぞろいの東京といってもそうはない。新宿渋谷池袋と伍するほどといっていい。もちろん同じ京浜東北線の並びの大井町駅や大森駅にも飲み屋がひしめく繁華街があるにはある。が、駅の近くの限られた一角であり、蒲田ほどの広がりを持っているとは言い難い。

 蒲田の町は、だから特殊な、不思議なオーラをまとった町のように思えるのである。

 ……と、そんな繁華街歩きだけで蒲田駅を片付けてしまってはあまりにもつまらない。繁華街以外の要素にも目を向けながら、もう少し蒲田駅を歩いてみよう。

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 蒲田駅に乗り入れるJR線は京浜東北線だけだ。京浜東北線のすぐ脇を東海道線も並行しているが、蒲田駅にホームを持たないので、駅としてはどちらかというと小さい部類。

 

 そして駅ホームを挟み込むように、東と西を駅ビルのグランデュオがサンドイッチ。西口のグランデュオは東急プラザと直結していて、つまりは高架に頭端式の乗り場を持つ東急線との乗り換え通路にもなっている。

 アーケード商店街の入口やドン・キホーテなどが入る雑居ビルに囲まれた西口駅前広場から、東急線のガードを潜って京浜東北線沿いに南に歩く。

 

 するとすぐに見えてくるのがユザワヤだ。ユザワヤは1955年、この蒲田に湯沢屋毛糸店として創業したのがはじまりだという。その頃には町の商店街の中にも小さな手芸用品店が決まってあったはず。ユザワヤもそのひとつからはじまって発展していった。なかなかスゴい成長物語である。

 

 そんなユザワヤの前を抜けて、線路を跨ぐ陸橋を潜った先には、富士通ソリューションスクエアという大きなビルが見えてくる。

 ちょうど訪れた時間はお昼時。富士通で働くみなさまが次々に出てきて、町の中へ消えてゆく。蒲田なら、夜だけでなくお昼であっても安くて美味い店に事欠くことはなさそうだ。

 
 

 富士通ソリューションスクエアのすぐ脇には、小さな踏切がある。京浜東北線の踏切……ではなくて、『砂の器』でもおなじみの車両基地に通じる引き込み線の踏切だ。

 ただ、『砂の器』の書かれた1960年代のような殺伐とした感じはもはやなく、ごく普通の東京の町の中の一角、といったところ。いくら蒲田と言っても、さすがに駅前から10分も歩けば繁華街ムードも和らいでくるものなのだろう。