〈あらすじ〉

 NYの観光客向けレストラン「ザ・グリル」。その厨房で働くスタッフの多くは、ビザ獲得が目的の移民たちだ。コックのペドロ(ラウル・ブリオネス)もメキシコ移民。彼の恋人でウェイトレスのジュリア(ルーニー・マーラ)はアメリカ人だが、何か秘密を抱えている様子。

 その日は、ペドロを頼ってメキシコからやってきた少女エステラ(アンナ・ディアス)の初出勤日だった。ところが会計係が「昨日の売り上げが足りない」と発表。たちまちスタッフ全員が疑われる事態に。中でも普段から素行が悪いペドロは第一容疑者だ。厨房はいつも以上の喧騒に包まれていく。そして何とかランチタイムを終えた頃、さらなるトラブルが起きて――。

〈見どころ〉

 原作は痛烈な資本主義社会批判が込められたイギリスの戯曲。1959年に初演され、日本でも2005年に蜷川幸雄が上演するなど舞台関係者には知られた作品。映画化は2度目で、舞台をロンドンからNYに、ドイツ訛りの主人公をメキシコ移民に変更して描く。

レストランの裏で起きる騒動の一日をモノクロで描いた社会派ドラマ

メキシコ出身のアロンソ・ルイスパラシオス監督による初の英語作品。第74回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門のほか、19の映画祭・映画賞に出品され12の賞を受賞、14ノミネートを達成している。

© COPYRIGHT ZONA CERO CINE 2023 配給:SUNDAE
  • 芝山幹郎(翻訳家)

    ★★★★☆不法就労の移民がひしめき合う半地下の厨房で憤懣が鬱積し、やがて臨界点を迎える。やや生硬とはいえ、沸騰する怒りとソーダ・ファウンテンの暴発が重ね焼きで描かれる場面はなかなかの迫力。A・ボーデイン譲りの人を食った笑いも期待したのだが、そちらは意外に不発だった。

  • 斎藤綾子(作家)

    ★★★★☆料理人たちの表情や動きを、狭い厨房の中で軽快に映し出すカメラワークが凄い。モノクロ映像なのに痛めつけられ抗うペドロを光と色が包む。新人料理人は彼を畏敬の眼差しで仰ぎ見、その場は磔刑を連想させる神々しさ。帰る場所のない移民の必死さに、無関心だった事を反省して★一つプラス。

  • 森直人(映画評論家)

    ★★★★☆壮絶にパワフル。現代社会の縮図として設計された厨房ドラマが灼熱のボルテージで展開する。『ボイリング・ポイント/沸騰』や『一流シェフのファミリーレストラン』といった秀作以上の政治的濃度。人種対立などの緊張感で戦場と化したキッチンの様相はほとんど『シビル・ウォー アメリカ最後の日』だ。

  • 洞口依子(女優)

    ★★★☆☆密度の濃い人気レストランで90分だけ美味しいと思える時間を過ごす感じ。モノクロ撮影を用いることで移民や労働搾取、資本主義の非人間的なメカニズム、米国が抱える社会問題を提示してくる監督のセンス。映画の運動エネルギーが渦巻き、時折ギャグの要素あれど、詰め込み過多。惜しい。

  • 今月のゲスト
    マライ・メントライン(著述家)

    ★★★★☆恒常的な搾取で成り立つ労働現場に、ごくまれに、人間の道理とは隔絶した形で、決して「幸せな」とは言えない形である種の「救済」が降ってくるかもしれない! という、奥深く澱んだ哲学系映画。マンハッタンの中心にある労働現場がどこかカフカじみた迷宮感を帯びているのがミソ。

    Marei Mentlein/1983年、ドイツ生まれ。テレビプロデューサー、コメンテーター。そのほか、自称「職業はドイツ人」として幅広く活動。

  • もう最高!ぜひ観て!!★★★★★
  • 一食ぬいても、ぜひ!★★★★☆
  • 料金の価値は、あり。★★★☆☆
  • 暇だったら……。★★☆☆☆
  • 損するゾ、きっと。★☆☆☆☆
撮影が最も難しかったのは、厨房のスタッフたちの動きを追った「14分のワンテイクカットだった」と監督。彼らの動きはダンサーのように厳格に振り付けられていたという。
© COPYRIGHT ZONA CERO CINE 2023 配給:SUNDAE
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『ラ・コシーナ/厨房』
監督・脚本:アロンソ・ルイスパラシオス 
原作:アーノルド・ウェスカー「調理場」
2024年/米、メキシコ/原題:La Cocina/139分
6月13日(金)〜
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
https://sundae-films.com/la-cocina/