原作そのものが持つ世界の美しさをそのまま!

 今回の演者、天中軒すみれの師匠は五代目天中軒雲月だ。天中軒は浪曲中興の祖と言われる桃中軒雲右衛門にあやかった名である。大舞台でこそ映える本道の浪曲を、代々の天中軒は継承、発展させてきた。天中軒すみれは東京藝術大学音楽学部楽理科在籍中に五代目の口演を聴いて魅了され、浪曲の道に飛び込んだ、他の職歴がない生え抜きの芸人である。芸界入りしてまだ8年目だが、浪曲界の未来を担う関東の人材として声望も高い。『陰陽師』公演は初めての大舞台となる。

演者の天中軒すみれ

 先に書いたように、ただ文章を追うだけの口演では意味がない。その上に、想像力の翼を広げられるかどうかが勝負なのだ。節と啖呵を突き詰めて、きっと成功してくれると信じている。

 曲師の広沢美舟は、関東浪曲界の至宝・沢村豊子の弟子である。沢村豊子は、故・国友忠がラジオで野村胡堂原作の『銭形平次捕物控』を5年間口演し続けた際、見事な表現力の演奏で支え続けた。想像力をかきたてる曲師の第一人者と言っていい。その師匠譲りの三味線で、きっと平安京を表現してくれるだろう。

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曲師の広沢美舟

 もちろん、これらの挑戦は最も大事なことをないがしろにしては成立しない。『陰陽師』という原作そのものが持つ世界の美しさをそのままお届けしなければならない。今回は筆者が台本化を担当したが、ファンを失望させない、これは『陰陽師』ではない、という声が上がることのない内容を第一に目指した。

 あの懐かしい世界がそのままに、観客の眼前に浮かび上がる。

 その光景が、浪曲という芸能の未来を拓いてくれると信じている。

 

陰陽師 (文春文庫 ゆ 2-1)

夢枕 獏

文藝春秋

1991年2月9日 発売

INFORMATION

夢枕獏・原作 浪曲「陰陽師—琵琶玄象―」

小田原公演お申込み先:https://onmyozi-odawara.peatix.com

東京公演お申込み先:https://onmyozi-tokyo.peatix.com

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