プーチン氏の訪問を受け入れ、身柄を拘束しなかったモンゴル

 ローマ規程締約国は、逮捕状を出されている人物が国内に立ち入った場合には、ICCに身柄を引き渡す義務がある。これはもちろんプーチン氏のケースにも当てはまります。

 2023年8月、主要な新興国で構成されるBRICSの会議が行われた際には、主催国の南アフリカがロシア側に対面出席を見合わせるよう要請したのか、それとも自重したのか、プーチン氏はオンラインで参加しました。南アフリカは締約国です。外交について私は詳しくありませんし、コメントする立場にもありませんが、実際問題として拘束するのが難しいとなれば、「来ないでくれ」という話になるのかもしれません。

ウラジミール・プーチン大統領

 一方で、同じく締約国のモンゴルは、2024年9月にプーチン氏の訪問を受け入れ、身柄を拘束せずに出国させたため、大きな問題になりました。ローマ規程第97条は、締約国が義務を履行できない事情がある場合、「この事態を解決するために裁判所と遅滞なく協議する」と定めていて、実際、モンゴルからは予審第二部(このとき私は既に所長に就任していて、在籍していません。代わりに、チュニジア出身のハイケル・ベン・マフード判事が加わりました)に事前の相談がありました。ただ、連絡が来たのが訪問の直前、ギリギリのタイミングだったため、予審第二部は迅速に対応し、モンゴルに意見提出などを求めたものの十分な協議ができず、モンゴルは対策を講じないまま、この件が起きたのです。

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 ICCは、ローマ規程第87条の規定に基づいて、モンゴルの一連の対応は「非協力」にあたると認定して、この問題を締約国会議に付託しました。結局、締約国会議が何らかの措置を取ることはありませんでしたが、出席した国からは非難の声が数多く上がりました。モンゴルは、たくさんの書面を予審第二部に提出したり、ハーグで各国の大使を集めて自分たちの立場を説明したりと、弁明に追われることになったのです。

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