ヒッチハイク、「話し方」講座……意外な“仕入れ”

さいとう 先ほどパイオニアとおっしゃって下さいましたが、本書でクリエイターは「仕入れ」が大事という話が出てくるでしょう。なにがプラスになるかわからないけど、意外なものが仕事に繋がるって。

フジワラ はい、全国をヒッチハイクして回っていたことも、ホームレスにおにぎりをもらった経験も、蔵元のストーリーをつくってお酒を売り歩いた日々も、意外に全部イラストレーターとしての仕事に繋がりました(笑)。

フジワラヨシト氏

さいとう それでいうと僕は、2017年頃に話し方を教えてくれる学校にいって「しゃべる練習」をしてたんですね。人前に出ると頭が真っ白になるからどうやって自己紹介したらいいんだろうと悩んだ時期があって。

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 1年間通って70万円ほどかかりましたが、かなり面白かったですね。参加者は会社の社長から、整体師さん、美容師さん、お坊さんと多種多様で、しかも刑事さんまでいた(笑)。得難い経験ができましたし、その後のYouTube活動に大きく活きたので元がとれました。

フジワラ すばらしい仕入れですね! さいとうさんはYouTubeでどういう意図でこの描き方をしているのかを非常に分かりやすく解説していますが、イラストレーターも言語化ってすごく大事だと実感しています。

 私は駆け出しの頃まったく絵が安定しなくて、毎回描き方が変わるし、クライアントの要求に対して3回も4回も描き直していて非常に効率が悪かったんです。自分のなかでこういう狙いでこういうプロセスで描いていると言語化するようになってから絵の再現性が高まりましたし、クライアントとも建設的なやりとりができるようになりました。

 あと、さいとうさんに感謝したいのはご著書の『イラスト最速上達法』。もう何度も読み返しましたが、画力の磨き方という言語化しにくい部分がノウハウとして示されていて、自分の練習のベースにしてきました。

さいとう 絵の描き方みたいなメソッドって「言語化するのは野暮」、というのが長らくこの業界の常識でした。僕の功績が多少あるとしたら、業界内で当たり前だからみんな言わないことを顔出しして言語化したことで、「ああ、ここまで言っても大丈夫なんだ」という認知が広がったこと。周りには、そんなにしゃべっていいんですね、と驚かれてきました。

さいとうなおき氏

「好き」を仕事にしたい人へのアドバイス

フジワラ あれ、全然平気じゃん! と(笑)。さいとうさんがファーストペンギンとして先陣きってくれたことで、後続の人たちものびのびとイラストやそのテクニックについて語れるんですね。

 最後に、これから「好き」を仕事にしたいと思っている人たちに向けたアドバイスをうかがわせてください。

さいとう 一般的に、スタートアップから10年間生き残っている会社って6%台くらいなんですね。そのくらい仕事というのは淘汰されるし、仕事の中身も変化していく。イラストの世界も、イラストレーターという名前は残るかもしれないけれど、今後仕事内容は大きく変わっていくはずです。

 今の小学生が憧れているようなカードゲームの絵やVTuberの絵も、その世代が大人になる頃には、かっこいい絵の定義がガラリと変わっているかもしれない。だから、「イラストレーター」という名前に振り回されずに、「今、絵という創作を使って、自分がこの時代に提供できるものは何なんだろう?」と常に自分に問いかけるのが、イラストレーターとして面白くやっていける秘訣だと思います。