イラストレーターは憧れの職業である一方、その道は多様化している。noteで人気を集め、新著『コネ、スキル、貯金ナシから「好き」を仕事にするまでにやってきたこと』が評判のフジワラヨシト氏と、業界のトップランナーでYouTubeでも著名なさいとうなおき氏の初対談が実現。人生の岐路からブランディングの戦略まで、縦横無尽に語り合った。

◆◆◆◆

フジワラヨシト氏(左)とさいとうなおき氏(右) 撮影・鈴木七絵(文藝春秋)

さいとうさんのYouTubeを聞きながらお酒の配達をした日々

フジワラ 今日は貴重な機会をいただき、ありがとうございます。私がイラストレーターとして独立したのは2020年の初めなんですが、実はその大きなきっかけの一つが、さいとうさんのYouTubeチャンネルなんです。これまでたくさんの動画を拝見してきました(笑)。

ADVERTISEMENT

さいとう え、そうなんですか! ありがとうございます。

フジワラ 当時、イラストレーターを志すも一度は挫折して、小さな酒販店で営業の仕事をやっていていたんです。お酒の配達をしながら毎日さいとうさんのYouTubeを聞いていました。諦めずに再びイラストレーターの道に踏み出せたのも、さいとうさんのおかげと言っても過言ではないくらい、クリエイティブな刺激を受けました。

さいとう そうおっしゃっていただけて光栄です。フジワラさんの初の著書、非常に面白かったです。ここまで網羅的に、フリーランスのクリエイターのためのマーケティング、営業、ブランディング戦略を伝えている本は、ありそうでなかったと思います。

 上手い絵があって後づけでマーケティングしたのではなく、むしろマーケティング主体で考え抜かれた方法論なので、参考になる人も多いと思いました。

フジワラ すごく嬉しい感想です。適応障害になってお酒の営業の仕事を辞めたあと、もう気合いで独立して「これしかないだろう」と覚悟を決めてやってきたので、他のイラストレーターさんの戦略が実はあまり分かっていなくて……。ある意味、『デュエル・マスターズ』はじめ、メジャーなフィールドで活躍されてきたさいとうさんとは真逆だと思います。

絵描きからしたら屈辱的な物言いをされ……

さいとう フジワラさんのような「叩き上げ」の経歴がない僕からすると、やっぱり一番面白かったのは、路上で1枚10円の似顔絵を描いていた頃のエピソード。「似てなくてええからカワイく描いて!」というお客さんからの言葉って、絵描きからしたら屈辱的な物言いだと感じるかもしれないけれど、クライアントワークって結局はこれですよね(笑)。ある意味、最初から仕事の本質にふれていたんだな、と。

さいとうなおき氏

フジワラ 関西のお客さんは、とにかく物言いがはっきりしているんですよ。そのセリフもそうですし、他の似顔絵師が4~5人も並んでいるところで自分だけなかなか依頼されない体験は正直きつかったです。

さいとう それでいうと「マイナスのモチベーションが原動力になる」という話も面白かったですね。僕もそうですが、昔の辛い記憶や社会への恨みというか、モヤモヤしたフラストレーションが創作の後押しになることってありますよね。ルサンチマンを発散するエネルギーが(笑)。