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吾輩はねこである。名前は白崎

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/07/10
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 友だちの家にこねこがうまれた。4匹うまれた。友だちはベイスターズファンだから、こねこに、ミヤーン、黒羽根、岡本透、そして白崎と名前をつけた。

「よかったら一匹もらってくれないか?」と言われて、友だちのお家に行った。片手にのるほど小さいねこたちがまりのように転がりながらじゃれ合ってる。その中で一匹だけ、母ねこの陰に隠れてじっとしているねこがいた。一匹だけやや白っぽい。「だから白崎だ」と友だちは言った。そのこねこだけ乳離れが遅く、離乳食も「スプーンであげてやっと食べる」、臆病で慎重な性格のねこらしい。「心配だけど」とも言っていた。手のひらに乗せると不安なのか小刻みに震えていた。その日から白崎はわが家の一員になった。

わが家の一員になった白崎 ©西澤千央

ビビリでメンタルは弱いけど、やるときはやる子

 こねこは、理不尽に、母ねこから離される、それは仕方のないことだけど。その代わり私が精一杯かわいがるからと、階段の隅で震えている白崎を指先でなでた。ちょうど去年の7月のことだ。

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 普段は本当にビビリで、掃除機をかけるとすっ飛んで逃げて行く。それなのに夜眠るとき、灯りを落とした寝室では無敵のねことなり、部屋中を狂ったように駆け回っては住人の足を順番にかじっていく。おかげで家族全員夏でも布団をかけるようになり、寝冷えは減った。

 白崎が我が家にやってくる前、ただひとり「本当に飼うの?」「俺面倒みれないよ」と渋っていた長男が真っ先にその魅力に陥落した。無感動無気力無関心の3Mがモットーの夫が白崎にだけは相好を崩した。次男は初めてのジェラシーを知った。私は……白崎に会う前、どうやって暮らしていたか思い出せない。それくらい白崎はうちに不可欠な存在で、白崎がいるからみんな笑顔になって、白崎は私たちをつないでいる。白崎がいなくなるなんて考えられない。

 いつのまにか自分でしっかりごはんも食べられるようになった。相変わらずビビリでメンタルは弱いけど、やるときはやる子。恵まれた大きな身体で、屈託なくいつも笑ってて、私たちの心配をよそに時々やらかして、今年は勝負の年って毎年言って、でもここぞってときにケガしたりして、ファンもアンチも誰もが真剣にその未来を考えていた。白崎の未来を。それはベイスターズの未来であり、すべての、自分を変えたい、変えなきゃと願いながら生きている人たちの、未来だったから。

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