仕事の駄賃は1回につき100円

 警察庁発表の資料によれば、事件前年の1965年の1年間だけで、交通事故発生件数は約57万件、負傷者約47万人、死亡者は約1万2500人を数えた。対し、2022年はそれぞれ約30万件、約30万人、2610人。死亡者数に限れば約8割も減少している。

 こうした状況下、全国各地で故意に車にぶつかり(あるいは、衝突したと見せかけて)、治療費や慰謝料を請求する当たり屋が横行していた。警察を呼んで事を大きくするより、金で解決したほうが何かと面倒がなくて済む。運転手側に事故を起こした意識がなくとも、路上で倒れている姿を見せることで罪悪感を持たせ金を出させる犯罪行為(詐欺罪、または恐喝罪)だ。

 新聞報道などで当たり屋の存在を知った大森は、見様見真似で悪事に手を染める。といっても、車に当たるのは体に障害のある自分ではなく内妻の竹子で、そのうち敏男が当たり役となる。

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 これは年端の行かない子供を被害者に仕立て上げたほうがより確実に金を詐取できると考えた竹子のアイデアだったが、困窮する生活を目の当たりにしていた敏男は最初は嫌々ながらも、次第に仕事と割り切って積極的に犯行に加担するようになったという。映画で描かれるように、仕事の駄賃は1回につき100円だった。