横浜流星と吉沢亮の「胸アツ」なライバル関係

 横浜流星は現在、大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)の蔦屋重三郎役で主演している。

 20年の『青天を衝け』で主演した吉沢と並ぶ大河ドラマ主演俳優で、ライバル役にこれほどふさわしい人物もいないだろう。年齢的には吉沢よりふたつ下だが、ほぼ同世代。俳優デビューが『仮面ライダーフォーゼ』(11)で、吉沢が演じる役の親友役だった。これがふたりの初共演となる。このときの横浜は15歳でまだ声も大人の声になりきっていない。それが体を壊して入院している儚げな役に合っていた。おもしろいのが、そのとき吉沢の役名が「朔田流星」で、現場では「流星」と呼ばれると混乱したと、『国宝』公式Xの映像でふたりは振り返っている。特撮ヒーローもので出会い、それぞれが大河主演を果たし、『国宝』で再会、がっつり芝居をすることになろうとは、このとき誰も思ってもいなかっただろう。特別な力を求める苦悩と友情。『仮面ライダーフォーゼ』で描かれたふたりの姿は『国宝』にも重なって見える。

2人は苦悩と友情の狭間で苦しむ 『国宝』公式Xより

 横浜は14年、ライダーシリーズと並ぶ若手俳優の登竜門のひとつである戦隊もの『烈車戦隊トッキュウジャー』のトッキュウ4号・ヒカリ役で人気者の仲間入りをする。さらに大ブレイクしたのは19年の『初めて恋をした日に読む話』。深田恭子演じるヒロインと年の差恋愛をする役に夢中になる女性視聴者が続出した。横浜も吉沢と同じくイケメンとして世の注目を浴びるレールに乗ったわけだが、その後は違う道に進んでいく。

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 真実を追うジャーナリストの闘いを描くNetflix『新聞記者』(22年)、ゴミの最終処分場建設を巡る『ヴィレッジ』(23年)など、社会派作品に出演。逃亡する殺人容疑者を演じた『正体』(24年)では日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した。また『春に散る』(23年)ではボクサー役。プロボクサーのC級ライセンスをとったきっかけはこの映画だった。『国宝』の李監督の作品には『流浪の月』に出ている。広瀬すずが演じる主人公を、愛が強すぎるあまり暴力で支配しようとする難役に挑んだ。俳優の好感度的には危うい役ではあるが、行き過ぎた愛情に苦しむ演技は見応えがあった。『国宝』の俊介はライバル喜久雄を追い詰めるようなことはなく、共演舞台では喜久雄と息を合わせて、華麗に芸を競い合う。

喜久雄と俊介は2人で息を合わせて舞台に立つ 『国宝』公式Xより

 ライバルがいると人間は燃える。それは芝居の世界に限ったことではない。ひとりで頑張るよりも相手を意識することで伸び率が上がりやすい。例えば、かつて、舞台『ムサシ』(09年 井上ひさし脚本、蜷川幸雄演出)で宮本武蔵役の藤原竜也と佐々木小次郎役の小栗旬が共演したとき、ふたりはまさに好敵手で、互いに高め合い、伝説に残る舞台をつくりあげた。今回、『国宝』を見て、あの頃の才能ある若者たちの対決に匹敵する新たな時代が到来したと筆者は感じ、胸が熱くなった。

 邦画では『クローズZERO』シリーズ、『HiGH&LOW』シリーズ、『東京リベンジャーズ』シリーズなど若い男性たちのバトルを描く物語がある。それによって若き俳優たちは切磋琢磨し、そのなかから抜きん出る者が現れるのが常。『国宝』はバトルものから文化芸術の世界に舞台を移し、己の誇りをかけることに暴力を用いるのではなく、俳優が俳優そのものを演じるというやり方で、若き俳優の成長を映し出すドキュメンタリーのようでもあった。吉沢亮にとっても横浜という好敵手の存在が、人間国宝にのぼり詰めるほどの逸材の役を演じるうえで大きな刺激になったことだろう。