「人間国宝」とは「重要無形文化財」の保持者のこと。令和7年2月1日現在、個人で105人が存在する。これまでに認定された数は395人(実人員392人)。芸能分野では、我が国にとって歴史上または芸術上価値の高いものとされる雅楽、能楽、文楽、歌舞伎、組踊、音楽、舞踊、演芸のジャンルから選ばれている。
映画『国宝』(監督:李相日、原作:吉田修一)は、ヤクザの組長の息子に生まれた立花喜久雄(吉沢亮)がなんの因果か上方歌舞伎の世界に飛び込み、実力派女形として高みに昇り、ついには人間国宝になるまでの物語だ。歌舞伎の世界は伝統を重んじ、主として世襲制。その厳格な制約から解き放たれて、自分自身の力を磨きあげることで喜久雄は特別な輝きを手にするが、そこに至るまでには数々の艱難辛苦があった。吉田修一による上下巻に及ぶ歌舞伎俳優の一代記を3時間弱(2時間55分)に濃縮した映画はめくるめく展開で時間の長さは感じない。むしろどんどんのめり込んでしまうほどだ。
※本記事では映画の詳しい内容に触れています。未見の方はご注意ください。
「イケメン」俳優から全国に名を知られる実力派へ
「主人公の喜久雄を演じるのは吉沢亮しかいない」
そこからはじまった企画であると李相日監督は劇場用パンフレットで語っている。
確かにそうで、観客は皆、吉沢に圧倒される。吉沢亮は歌舞伎俳優ではないにもかかわらず、歌舞伎の女形を極め“人間国宝”に上り詰める俳優として説得力があった。とりわけ、選ばれたものしか見ることのできない特別な領域に到達するクライマックスの『鷺娘』には席を立てなくなるほどの凄みがある。繰り返すが、吉沢亮は歌舞伎俳優ではない。にもかかわらずよくぞここまで! 芸に厳しい歌舞伎界、演劇界の人たち、見巧者たちからの絶賛の声が日を追うごとにSNSで増え、劇場にも観客が連日詰めかけている。
なぜ、吉沢亮に説得力があるのか。
2020年、大河ドラマ『青天を衝け』(NHK)の渋沢栄一役で主演した吉沢亮は、いまや若手実力派として知られている。『国宝』でさらに認知度が上がるだろう。初期の頃は主としてビジュアル面が注目されていた。デビューのきっかけは2009年、「アミューズ全国オーディション 2009 THE PUSH!マン ~あなたの周りのイケてる子募集~」で、審査員特別賞を受賞した。2011年には若手俳優の登竜門である特撮ヒーローもの『仮面ライダーフォーゼ』の、もうひとりの仮面ライダー・メテオ役で人気を博した(登場は17話から)。当時はいわゆる「イケメン」俳優のひとりとして、若い世代向けの恋愛ものや青春群像ものにキャスティングされていた。そのなかでメディアによる国宝級イケメンランキングの1位を何度も獲得し、殿堂入りを果たすほど一歩抜きんでた存在となっていく。
