思いもかけない逆境
道尾 何をやるかも決まってないけど、とりあえず一度打ち合わせをしてみましょう、となったのが一昨年の夏ごろでしたっけ。
加藤 「DETECTIVE X」発売の1年ちょっと前だったと思うので、2021年の夏かな。コロナ禍のあおりを受けて、リアル脱出ゲームはどん底が続いていた時期ですね。
道尾 密、飛沫がダメというコロナ禍でSCRAPが大打撃を受けていることは僕も当然知っていました。ところが20年夏には「ある沈黙からの脱出」という、コロナ禍の状況を逆手に取ったリアル脱出ゲームを作ってしまったでしょう。あれに僕はものすごく感動したんです。
加藤 映画も演劇もエンターテインメントが何もかも中止になって、いつ再開できるかもわからない。規制延長を繰り返しながら段階的に緩和されていく中で、たぶん最初にオッケーになるのが映画だろうと思ったんです。上映中に観客が喋らない映画と、僕らの決定的な違いは飛沫の有無なので、“飛沫の飛ばないリアル脱出ゲーム”があれば、映画解禁と同時に僕らも先陣を切って再開することができる。その一心で準備していたゲームでした。
道尾 プレイヤーは全員マスクを着けたまま、喋ってはいけないし、ジェスチャーだけで意思疎通しないと解けない謎がいっぱいあって。逆境を利用したゲームを作ってしまう、転んでもただでは起きない人だなと。
加藤 逆境だからこそ作れたゲームというのは宝物だし、誇りです。それを道尾さんが遊んで、褒めてくださったのはすごく励みになりました。
道尾 最後の大謎も美しく、フェアで、見事でした。一緒に面白いものを作りたい気持ちがいよいよ強まったところに、第1回のミーティングとなった。結果的に最高のタイミングで時が満ちたという感じでしたね。
加藤 その時に道尾さんが犯罪捜査ゲームについて力説されて。
道尾 海外では人気のあるゲームで、僕は英語圏のものを片っ端から取り寄せていました。捜査資料や写真や証拠物を実際に手に取って、本当に刑事や探偵になった気分で推理する。夢中になって遊んでいたんですが、一つだけ大きな不満があって。それは、物語がないこと。犯人を名指しして事件は解決するんだけど、取ってつけたような動機だったり、犯人や被害者の背景も描かれていないか、そもそも設定されていない――つまり謎の向こうに何も物語がないものばかりだった。じゃあ、世界で初めての“物語のある犯罪捜査ゲーム”を作りたい、とZoomの終了時間ギリギリまで熱弁して。
加藤 何が出来るかを探る打ち合わせのはずが、「道尾さん、もうやること決まってるじゃないですか」と(笑)。
