Instagram、TikTokといったSNSの普及や動画や音楽などサブスクリプション・サービスの多様化が進んだ今、人々のエンターテインメントを受容するプロセスや、コンテンツをとりまく環境は日々大きく変化しています。
そんな中で世界的に注目を集めているのが「BookToker(ブックトッカー)」「BookTuber(ブックチューバー)」といった、SNSや動画で書籍を紹介するインフルエンサーたち。彼らの影響力は日に日に大きくなっていて、紹介する作品のセールスが爆発的に伸びることが増えてきています。
日本においては、今年で活動5年目を迎える小説紹介クリエイター・けんごさんが、その草分けにして第一人者、といえるでしょう。
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およそ5年間で400冊紹介、筒井康隆『残像に口紅を』が大ブレイク
けんごさんが、TikTokに小説に関する動画投稿を始めたのは、大学4年、2020年秋のこと。
「子供の頃から野球ひとすじで、大学でも野球に打ち込んでいました。実は小説を読み、その面白さに魅了されるようになったのも、大学生になってからと遅いんです。
部活を引退して、何かに打ち込んでみたいと思った時に、映像制作にも興味があったので、本に関する動画投稿を始めました。それから5年間で、およそ400冊の書籍をとりあげてきました」
けんごさんの名を一躍世に知らしめたのは、筒井康隆さんが1989年に刊行した『残像に口紅を』(中央公論社、文庫版は1995年刊行)。けんごさんが2021年にSNSで紹介すると、その動画が大きくバズり、中高生を中心とした新しい読者を獲得して11万部を超える重版へとつながったのです。
「TikTokをよく見ているのは、これまでほとんど小説を読んだことがない10代の中学生や高校生が多く、有名作家、ベストセラー作家をそもそも知らない方もいらっしゃいます。筒井さんであろうと、無名の作家さんのデビュー作であろうと、とにかく自分が読んで面白かった作品を取り上げよう、というルールで投稿を続けていくなかで、再生回数がどんどん伸び、動画で扱った本が売れた、重版がかかった、という知らせをよく聞くようになりました。また、たまたま訪れた書店さんで『けんごがTikTokで取り上げた小説コーナー』ができていて驚いたこともあります。もちろん、嬉しいことです。面白い作品を知ってもらう機会さえあれば、若い人たちも本を手にとってくれるということが、筒井さんの書籍を紹介することで証明できたのでは、と考えています」
以降、けんごさんが取り上げた書籍については、けんごさんの推薦帯が新たに巻かれたりと、その注目度は高まるばかりとなっていきました。