帰りのバスまでもう少し時間があったので…

 そんな歴史に触れつつも、まだ帰りのバスまで時間があったのでさらに槻川沿いを東に歩いて進む。

 

 道の駅のすぐ近くには村立の小学校。人口2400人ほどの小さな村だが、村内に小学校も中学校もあるのだから立派なものだ。

 少し歩くと広々とした田んぼが見えてくる。典型的な“里山風景”、日本人の原風景といったところか。ところどころにお寺や神社があるのもまた、この村が相当な古い歴史を抱えていることを教えてくれる。

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 それどころか、このあたりの山々には中世の山城跡があったりして、村東部の集落の中には寛政3年創業という和菓子屋があったりするから、やっぱりスゴい歴史の持ち主なのだ。

 寛政3年は西暦に直すと1791年。ちょうど松平定信による寛政の改革の真っ最中。大河ドラマ『べらぼう』で言うところの、寺田心くんである。

 こうして秩父の山の中の村を歩くと、日本は山国なのだということを改めて実感させられる。

 大都市ばかりでなく、大きな市街地を持ち得ないような山の中にも歴史があって、脈々と継いできた営みがあるのだ。都会の中で暮らすばかりではなく、たまにはこういう形で“日本”に触れる旅も悪くない。

 そしてクルマやバイクも良いけれど、どうせなら公共交通を使って村歩きするといい。バスはだいたい1時間に1本ほどは走っている。

 
 

 次のバスを待つまでの1時間、またひとつ見送って2時間ばかり。村の中をうろうろと歩き回るにはちょうどいい。東京からほんの半日ばかりの日帰りで、小さな発見に満ちあふれた旅である。

写真=鼠入昌史

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