埼玉県は、「市」の数が全都道府県の中でいちばん多いのだとか。その数、実に40。
ついでに言えば、埼玉県は“海のない県”としては最多の人口を誇る。県内のだいたいのエリアが関東平野、つまり真っ平らな土地であり、そこにとてつもなくたくさんの人が住んでいる。だから、市が多いというのもまあ当たり前、ということなのだろう。
が、そんな埼玉県の中にあっても、たったひとつだけ「村」がある。その村とは、東秩父村という。
村の名から察するに秩父の東側にあるのだろう……くらいのことはわかる。秩父は埼玉県西部の山の中の盆地にある町だ。つまり、東秩父村は秩父盆地の東側、きっと山の中の村なのだ。いったい、どんな村なのか。とりあえず、村の中心を目指すことにしよう。
東武東上線の駅からバスに揺られて20分。都心からも意外と近いような…
といっても、東秩父村に鉄道は通っていない。なのでどこかの駅からバスに乗り継いで、ということになる。東秩父村というからには、きっと秩父の町からバスに乗ることになるのだろう。
なれば、西武線の端っこの西武秩父駅まで電車に乗って、さらに秩父鉄道に乗り継いで。なかなかの長旅になりそうだ。編集氏、よくもまあ気軽に「埼玉県唯一の村、行ってきてください」などと言うもんで……。
などと思って調べてみれば、これはただの勘違い、思い込みであった。東秩父村の玄関口になる駅は、東武東上線の小川町駅なのだ。
小川町駅は池袋駅から急行に乗れば1時間10分ちょっと。そして小川町駅から「イーグルバス」という小さな路線バスに乗り継ぐ。関東平野の端っこの小さな駅の小さな町をバスに揺られて抜けてゆき、10分もすれば車窓は町から田園風景に。
すぐに右にも左にも山が間近に迫ってくる。バス通りのすぐ脇には槻川という川が流れている。この川に沿って、上流に遡るように山と山の間の谷間を進む。
そうして20分ほど経てば、東秩父村の中心部にたどり着く。東京の都心から、ほんの1時間30分ほどの旅。東秩父村、案外遠くない。東京の檜原村のほうがよほど遠いように感じられるくらいだ。




