「食事を作ることに疲れる」という正直な思い

――「母親はいつも笑顔で」の圧、ありますね……。

渡辺 いろんなケアを担っているのは母親だから、そりゃ母親が笑顔でいれば、もちろん家庭は明るくなると思いますが、あまりに荷を負わされすぎですよね、本当に。

――笑顔になれない自分を責めてしまう。

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渡辺 そうなんですよ。SNSなどを見ても「私こんなふうにちゃんとお料理作れない」と思って落ち込む。ウェブでの連載中に「食事を作ることに疲れている」と書いた時、たくさんの反響をいただいたんですよ。別に家族のために作るのが嫌なんじゃない、でも疲れる気持ちもわかってほしい、と。

©佐藤亘/文藝春秋

――そこがなかなか理解してもらえないんですよね。

渡辺 「そんなに(料理するのが)嫌なんだ」とネガティブに思われても困るなと思っていたんですけど、「そうじゃなくて……!」ですよね。

爆発する前に不機嫌の芽をこまめに摘み取る

――いろいろな不機嫌を丁寧に洗い出して言語化されているのが、すごいなと思いました。あんまり正面から向き合いたくないことも多いので。

渡辺 正面から向き合いたくない、そうですよね。きっとこれはスルーした方が生活はうまく回るとか、私がやったほうが早いとか、そういう思いっていろんなところにあって。

 たとえばエッセイにも書いた「ボディソープとシャンプーの詰め替え問題」とかもそう。でも、ちょっとずつちょっとずつモヤモヤが降り積もっていって、ある時爆発する。もしくは言えないことを繰り返しているうちに爆発もできなくなって、息が詰まってしまう。

©佐藤亘/文藝春秋

「なんでみんな気づかないの」家族に伝えてみることも

――自分自身が不機嫌だったり体調が悪いということを、なんとなく認めたくない気持ちもあったりして、家族にそのことを上手に伝えられず「察してよ!」とまたイライラ……。というループもあります。

渡辺 イライラするのって、原因があると思うんですよ。たとえば、別にいつもそういうわけじゃないのに、たまたまソファでゴロゴロしている人を見てすっごくイラッとしたり……。

 あと、こんなこともありました。私がみんなの分のバスタオルを洗濯機に入れて、新しいバスタオルを掛けるのが当たり前になっていたんですけど、ある日「なんで私がやっているんだろう?」って思って。だから、ちょっと1回やめてみようと思ってやらなかったんですね。そうしたら、みんなそれぞれ自分のバスタオルは取るんですけど、私のだけ掛かっていなかった。

※写真はイメージ ©AFLO

 それを見たときに「ちょっと待って」って。「私さ、いつもバスタオル洗って、みんなの新しいバスタオル掛けてあげるよね。なんで私のは掛けてくれないの? なんでみんな気がつかないの」って言ってみたりしました(笑)。そうやって、モヤモヤを小出しにしていくというか。

――コップの水がいっぱいになる前に、ちょっとずつ調整して。 

渡辺 そうそう、そうなんですよ。みんなが協力していろんなことをやってみる。本当に細かいことでも、全部母親一人がやったら大変なことだから。畳んだ洗濯物を自分のところに持っていくとか、自分で使った食器は自分で洗うとか、洗濯物を裏返しにしないとか、そういうのを一つ一つ「やって」って言うと、意外と直ったりする。

 そうやって不機嫌になる要素をちょっとずつ減らすみたいなことは、常にしているかもしれないです。