この本を告発本と捉えてほしくない
――この本では過去の自分と向き合って書いたとおっしゃっていましたが、その作業は辛くなかったですか。
神野 最初に連載のお話をいただいた時はすごく悩みました。思い出したくもない過去もありましたし、蓋していた自分の感情と向き合うのが怖かったです。見て見ぬふりする方が楽ではあったけど、自分が前に進むために避けては通れないと思って書き始めました。
――過去の自分と対峙して、乗り越えられた感じはありましたか。
神野 乗り越えたというより、感情が薄まったというのが正しいかもしれないです。訳も分からなかった感情に名前を付けて、1つの経験として捉えられるようになったことで自分を受け入れられたというか。
今でも調子が悪ければ当時のことを思い出すこともあるし、完全に忘れるってことはできないですが、ふっと暗い方に落ちなくなったなって。
書くことで発散しているのもあると思います。人に話せないことや恥ずかしいことでも文字の上だと話せるので。
――書くという行為が自分へのカウンセリングでもあったと。
神野 辛かったことも多かったけど、自分にとって頑張ったと思えることではあるので、それを認めてあげるのが必要だったんだと思います。
当時のことを赤裸々に書いていますが、この本を告発本と捉えてほしくなくて。業界を否定したいわけでないんです。ただありのままの感情を伝えることで、自分自身も救われるし、それが誰かに伝わったらいいなって。
「元セクシー女優」だから幸せになってはいけない?
――本の中で「元セクシー女優」だから幸せになってはいけないと書いていたのが印象的でした。
神野 考えすぎなのかもしれませんが、普通の人生を望む資格がないと思っていました。だから男性から求められても断らなかった。
撮影現場の1回のセックスに比べたら、こいつとのセックス1回なんかたかだか10分、20分のことなので大したことない。ここで私が拒否する方がめんどくさいと諦めていました。
でも連載を始めてから周りに「なんで普通の人生を諦めるの? 別に嫌なことは嫌って言えばいいんだよ」って言われたことが大きくて。その時に「あ、諦めなくていいんだ」って思いました。性で売っていた過去があっても、嫌なことは嫌と言っていいんだって。自分で自分に呪いをかけていたことに気づいてから、少しずつ幸せになってもいいって思えるようになりました。
