夫とブランドを立ち上げた理由
そこで新たな目標に据えたのが演劇だった。39歳のときからやりたいと言い続け、42歳にしてようやく『PHOTOGRAPH51』(2018年)で初舞台を踏む。同作では、DNAのらせん構造の発見につながる研究成果を残しながらも不遇だった実在の科学者ロザリンド・フランクリンを演じた。
前後して39歳だった2015年には、夫とともにデニムブランド「SINME」を立ち上げている。俳優の仕事は基本的に受け身なだけに、自分でゼロから生み出したことがないのがずっとコンプレックスだったらしい。それを解消しようと考えた末、自分の好きなファッションの仕事をしようとの結論にたどり着いたという。
48歳での連ドラ初主演、17年ぶりの映画主演も
俳優の仕事でも新たな経験が続く。一昨年(2023年)には、『ブラックファミリア~新堂家の復讐~』で初めて連続ドラマで主演を務めた。キャリア20年あまりにして意外な気もするが、本人も《まさかこの年になって主演(の役)をいただけるなんて》と驚いたらしい(「TVガイドWeb」2023年10月5日配信)。
その前年、2022年には映画『夜明けまでバス停で』で、『欲望』以来17年ぶりに長編映画で主演を務めている。同作のモチーフとなったのは、コロナ禍のさなかの2020年に東京都内のバス停のベンチで夜を明かしていたホームレスの女性が、近所に住む男に撲殺された事件だ。監督の高橋伴明はこの事件をもとにオリジナルストーリーをつくり、非正規雇用や女性の貧困など現代の日本が抱えるさまざまな問題を盛り込んだ。
このとき板谷が演じた三知子という主人公は、長年バイトしていたチェーンの居酒屋をコロナ禍のあおりで解雇され、住居も失った。それでも彼女は実家を含め誰にも頼ろうとはしなかった。

