先進国で最も硬派記事を読まないのは……
塩田 硬派な記事と軟派な記事という言い方がされるじゃないですか。世間一般では、文春は不倫の記事ですごく儲けているというイメージがついちゃってます。けれど、僕の感覚だと不倫記事ってSNSや「こたつ記事」によって拡散されたものを無料で読む人がほとんどで、さほどお金にはならない。むしろ、硬派な記事こそ昔からの紙の読者や、有料会員が読んでくれるから、編集部の支えになってる部分があると思うんです。
たとえば最近も、女優さんの不倫の記事がありましたよね。同じ号に、石破総理への闇献金3000万円の記事が出ています。どう考えても石破さんの3000万円の方が大きな話で、硬軟、両方やるところが、文春らしさだなと思ったんですよ。
竹田 これ、とても難しいんですけど、おっしゃるとおり週刊文春5月15日号では、右トップが石破さんの闇献金3000万円。左トップが不倫記事の第2弾で、証拠となるようなLINEを載せました。このLINEの中身に関しては、無料の「文春オンライン」には一切出さなかった。テレビ局や他の媒体からの使用依頼もすべてお断りして、無料空間にはLINEの中身が出ないようにしたんです。結果、「週刊文春電子版」の有料会員数がどれくらい増えたかを見ると、石破さんの闇献金記事を読むために入ってきたお客さんより、不倫のLINEを読みたくて入会したお客さんの方がずっと多かったんですよ。
塩田 なんと……。
竹田 これが現実で、石破さんの闇献金のような意義のあるスクープばかり載せていると、雑誌は「やっていけない」ということになります。
塩田 これは10年くらい前の古いデータなんですけど、ロイター通信のジャーナリズム研究所の調査によると、先進国の中で最も軟派記事を読んで硬派記事を読まない国が日本なんだそうです。このレポートを読んで目の前が真っ暗になったんですけど、日本って本当にコンテンツ大国で、エンターテイメントが充実してるんですよ。僕もエンタメの世界で生きている小説家なのでありがたい半面、ここまで政治や経済の記事が読まれないと、日本人の政治的成熟度も上がらないし、投票率も上がりません。困ったことだと思っていたところだったので、文春の読者もそうなんだと聞くと、ちょっとショックですね。
竹田 読者に責任を転嫁するつもりはまったくありません。ただ、結果として起きていることは、不倫や熱愛、スキャンダル記事で稼いだお金で硬派な記事をやっている。現状そういう構造があるのは否めません。
