最近、プロット段階のときは机に向かって粘るより、映画を1本観る方が有意義だと感じていて、夜は妻と一緒に映画を観たり、意識的にインプットに時間を割くようにしています。あとは、夜遅くまで作業しても、結局体調を崩して時間を無駄にすることも多いので、睡眠時間の確保やマッサージなど、かけるべきコストはしっかりかけなくてはと、この1年で実感しました。ただ、まだ自分は仕事を断る立場にないという思いがあって、まとまった執筆期間が必要な依頼以外は、なるべく受けるようにしています。

 井上 僕も今のところ依頼を断ったことはないです。「小説新潮」恒例の新人作家特集に、森さんに続いて、今年僕も参加しましたし、先日発売された「ダ・ヴィンチ」の伊坂幸太郎さん特集でもご一緒しましたね。伊坂作品から発想した掌編を若手作家が書き、各作品に伊坂さんがコメントを付けてくださる企画でした。自分以外の方に宛てられたコメントも、じっくり読んでしまいました。

賞の盛り上がりは自分たちに返ってくる

  気になりますよね。もちろん僕も熟読しました。この企画には額賀澪さんも参加されていて、清張賞出身作家の寄稿率が高い(笑)。以前、千葉ともこさん(『震雷の人』で第27回松本清張賞)が「賞の盛り上がりは、結果的に自分たちに返ってくる」とおっしゃっていて。清張賞出身という経歴がブランドのようになったらいいですね。個人的には、僕の小説を読んだ若い人に「小説家になりたい」と思ってもらうのが目標で、若い世代に向けた小説を書いて届けることを目指しています。

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森バジルさん

 井上 かっこいいなあ。僕は非常に個人的な人間なので、僕自身が読者として満足できるような小説を書きたいという気持ちが強いです。最近、乙川優三郎さんの『生きる』を読んで、文章も内容も全てが素晴らしくて「自分もいつかはこういう小説を……」と強く思いました。松本清張賞出身というと、受賞者は全員社会派ミステリを書いていると勘違いされ、「こんなの松本清張じゃない!」と言われることもありますが……。

  清張賞あるあるですね(笑)。応募要項には「ジャンルを問わない広義のエンタテインメント小説」とだけありますから、これからも全力で読者をエンタテインしていきましょう。

森バジル(もり・ばじる)

1992年宮崎県生まれ。2023年『ノウイットオール あなただけが知っている』で第30回松本清張賞を受賞し、単行本デビュー。2024年に第2長篇『なんで死体がスタジオに!?』を刊行。9月には『探偵小石は恋しない』を刊行予定。

 

井上先斗(いのうえ・さきと)
1994年愛知県生まれ、川崎市在住。2024年『イッツ・ダ・ボム』で第31回松本清張賞を受賞しデビュー。2025年6月に第2長篇『バッドフレンド・ライク・ミー』を刊行。

「オール讀物」7・8月号より) 

バッドフレンド・ライク・ミー

井上 先斗

文藝春秋

2025年6月20日 発売

なんで死体がスタジオに!?

森 バジル

文藝春秋

2024年6月26日 発売

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