2作目の“壁”
森 僕は以前ライトノベルの新人賞を受賞してデビューしたことがあり、実質2度目のデビューでした。ライトノベルの世界では売れる目算がとにかく重要で、小説投稿サイト「小説家になろう」でポイントを溜めていないから、と言われて2作目の企画が全く通らなかったこともありました。その苦しみを数年味わった分、一般文芸で再デビューできたら絶対に一作では終わらない、という思いはもはや強迫観念に近かったです。清張賞受賞後、2作目の執筆に取り掛かる時に浮かんだのが、テレビの生放送を舞台にするというアイデアでした。担当さんに相談すると、ライトノベル時代の停滞が嘘のように、「それ、いいですね!」とスムーズに提案が通り(笑)。『なんで死体がスタジオに!?』はデビューからちょうど1年後に刊行できました。
井上 『なんスタ』は話の妙や物語の構成力に感銘を受けました。テレビ番組の裏側をリアルに描きつつ、謎解きミステリとしての面白さも両立させていて、素晴らしかったです。
僕も、2作目を出す作家になれるかというのは気にしていて、割と早い段階から次作の打ち合わせを始めていました。受賞作がストリートカルチャーを扱った小説だったので、次も雰囲気の近い作品にしようかと。ただ、ちょうどその頃、石田衣良さんと対談させていただく機会があったんですね。「ストリート繋がりで、ナンパ師の話を書こうと思っています」と話したら「5作目辺りに回して、2作目はもっとエンタメに徹したものを書いたほうがいい」と言われてしまい……。それが9月頃のことで「君の思う一番のエンタテインメント作品をそのまま書きなよ」という言葉を信じて、方針を大転換し、年末に予定とは全く違う第1稿を提出しました。どうにか順調に進めることができて、2作目は6月に刊行されました。
取材はYouTube動画の“隙”から
森 井上さんの新著『バッドフレンド・ライク・ミー』を読み始めたら、あまりの面白さに夢中で読破してしまいました。主人公の元ホスト・森有馬が借金を負い、青スーツの男から課される“試練”に挑んで返済を目指す物語ですね。
井上 石田さんから「好きな映画は?」と聞かれ、「それをまるごと日本に舞台を移して書けばいい。そのまま書いているつもりでも、君が小説にすれば全く別のものが生まれるから」とも助言を頂いたんです。格好いい先輩による、完璧なアドバイスだと思いました(笑)。この言葉に背中を押され、実は今作のストーリーは「アラジン」をなぞっています。

