「胃癌検査・陽性」でも慌てるには及ばない理由

 検診を受けるのは無症状の、自分では健康だと思っている人で、実際に胃癌がある確率は非常に低い。仮に0.2%、受検者1万人のうち患者20人とする。うち90%で「陽性」だから、「胃癌があって検査陽性」は18人。しかし健常者9980人のうち、95%は正しく「陰性」だが5%の499人では間違って「陽性」に出てしまう。

 よって、合計1万人のうち検診結果「陽性」は499+18で517人、うち本物の胃癌患者は18人だから確率は約3.5%に過ぎない。しかし彼女の妊娠反応の検査をやるのは「身に覚え」があるからで、だから妊娠しているかどうか、検査前は半々とすると、同様の計算で「検査陽性」と出た場合の妊娠確率は約94.7%になる。

 こうした「身に覚え(症状)」がない人を対象とした検診の主な目的は、次へ進む「絞り込み」である。全員に精密検査をするのはコスパが悪すぎる。上記の例では0.2%から3.5%という、20倍近くの「高リスク」集団にまで絞れた。ただし個々人にとっては、まだ「癌の確率は30分の1」にしか過ぎない。

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検診の多くは「完全な無駄」に終わるもの

 この人たちを対象に、大腸癌疑いなら内視鏡を、肺癌疑いならCTを、また乳癌疑いなら外から針を刺して生検をしたりする。全て危険を伴う。例えば20歳の女性が胸や腹のCTをとれば、被曝により数百分の一の確率で発癌リスクがあるという。また、明瞭な画像を得るためには造影剤を使うが、アレルギー反応で10~20万人に1人は死亡する。大腸内視鏡では出血や穿孔などの偶発症が0.1%程度に起こる。むろん「針を刺して生検」にも危険はある。

 結果論からすると「大丈夫」だった大多数の人にとっては、これらは完全な「無駄」である。またその結論が出るまでの心理的な負担は、無形の社会的コストとしてのしかかる。かつてTBSが、非常に稀な20代の乳癌で亡くなった女性を題材にしてドキュメンタリーや映画を作って大儲けをし、「20代でもマンモグラフィを」というキャンペーンを張ったが、世の若い女性を乳癌ノイローゼにするだけの阿漕な、死の商人のごとき商売である。