「癌を持っていた方が得です」と一部の患者に伝える理由

 さてUSPSTFのガイドラインでは、検診対象の年齢に74歳という上限もついている。高齢者では「見つけて治した」癌が悪影響を出すより先に他の病気で死んでしまうことも多く、その場合、結果的には癌に対する検査治療ひっくるめて全部無駄になる。これを過剰診断というが、イェール大学などの研究では、乳癌検診で見つかった乳癌のうち、70~74歳では31%、75~84歳では47%、85歳以上では54%が過剰診断と推定されるそうだ。

里見氏は、高齢になったら癌は放っておいた方が良いと患者にすすめている ©MIKI_Photography/イメージマート

 これは高齢者だけの問題ではない。悪性度が低く、進行が緩徐で生命への危険が少ない癌でも同様のことが起こる。かつて韓国で、超音波での甲状腺検診が行われ、多数の「早期」甲状腺癌が発見され治療(外科的切除)されたが、甲状腺癌の死亡率は全く変わらず、つまりは「放っておいても大丈夫な」ものを片っ端から見つけて切って、「患者を助ける」どころか、手術の合併症で苦しむ患者を量産しただけに終わった。日本でも福島原発事故後の住民の甲状腺検診で多くの癌が「発見」されたが、原発事故による発症ではなく「もともとあったものを見つけただけ」と考えられている。

 当然のことながら、高齢者に対して進行が遅い癌の検診をするのは最も「過剰診断」が大きくなり、腫瘍マーカーのPSAで前立腺癌の検診をする場合がその代表である。PSA検診の普及で前立腺癌の「発生率」は急増した。高齢になってそんなのを受けたばかりに引っかかり、「癌が発見」され、手術で「治った」が後遺症に苦しむ人は多い。

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 私の知人に、90代で乳癌が発見された。「どうしたものか」と相談されたが、「放っておいたらいいですよ。そのお年になったら、日本では、癌を持っていた方が得です」と答えておいた。今の規則では、ホスピスに入れるのは癌の他はエイズ患者だけである。ごく親しい人に私は、年を取ってからの癌は下手に早期に見つけて「治してしまう」より、持っておいて、いざ弱ってきたら癌患者へのそんな「特典」を利用したらいいと、本気でアドバイスしている。

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