開業したら「収入は5倍」だが「虚しさ100倍」

 私は基本的に人さまの商売には興味がないので、それが「儲けすぎ」なんて言わないが、財務省は私のように傍観はできないらしく、財政制度審議会は2023年11月に、診療所の(つまり開業医の)診療報酬を5.5%引き下げる答申を出した。ごく平たく言えば、「コロナで儲けたのだから、少々返せ」という意向もあるらしい。当然、開業医が主なメンバーである日本医師会は猛反発した。

 ところで「診療報酬」とはつまり、医療者が患者を診察したり検査したり治療したり説明したりする「診療行為」への対価である。「医療費」は、ざっくりこの「診療報酬」と「薬剤費」からなる。診療報酬は、だから、医者やナースや薬剤師さんや理学療法士さんその他、医療に従事する人の「人件費」と思っていただいてもいい。財政審の方針は、病院に比べ診療所が「儲けすぎ」だから調整しよう、というのである。

 これに対して、医者はすべて反対しているかというと、これが案外そうでもない。医者向けのポータルサイトの掲示板をみると、開業医と勤務医の一部で結構「内輪揉め」している。M君と同期レジデントの差のように、勤務医はやはり、開業医は「ラクして金儲けしている」と考える向きが少なくなく、それに対しても開業医さんたちは「自分たちはこんなに一生懸命やっている、忙しい」と反論している。「これは、開業医と勤務医を分断しようとする、財務省の策略だ」なんてお約束の陰謀論まであった。

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 一方で、ある超一流大学出身の先生が大学病院を辞めて開業したものの、「収入は5倍になったが働き甲斐を失い、自分は社会に貢献していると思えず、虚しさは100倍」なんてSNSで発信したりもしている。すごく熱心で、私なんかよりはるかに忙しい開業医の先生を、私は何人も知っている。だが「これで仕事になるのか」と眉を顰めたくなるような先生も、いないではない。全部込みの「平均値」で方針を出さないといけない財務省も大変だ。