そのため、参加者8人は、1996年3月よりネパールの標高約5千400メートルのベースキャンプを拠点に、ロブやACのガイドであるマイク・グルーム(同37歳。オーストラリア人。演:トーマス・ライト)やアンディ・ハリス(同31歳。ニュージーランド人。演:マーティン・ヘンダーソン)らの指導のもと、約1ヶ月間、低酸素への耐性訓練や、登頂に必要なクレバス(氷床や雪上に現れる大きな割れ目)を梯子で歩く練習などに励む。

 劇中の登場人物が多すぎてわかりにくいが、このときベースキャンプは、ロブとは旧知の仲で、登山ガイド会社「マウンテン・マッドネス(MM)」の筆頭ガイドを務めるアメリカ人登山家スコット・フィッシャー(同40歳。演:ジェイク・ギレンホール)の公募隊の顧客やガイド、シェルパ18人、他に台湾からの登山隊、南アフリカからの登山隊ら30数名でひしめいていた。

 エベレストへの登頂は天候の関係から毎年5月が通例ながら、この年は特に登山者が多く、劇中では触れられていないが、顧客の中には本来登山には不必要な大量の資材を持ち込んだり、密かに性交渉を持つ男女もいたらしい。

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守られなかった登頂リミット

 話し合いのうえ、AC隊とMM隊は行動を共にすることになり、5月10日午前0時、ベースキャンプを出発する。ロブがメンバーに厳命したのは、スケジュールを考慮した14時までの下山だった。

 劇中に詳しい描写はないが、エベレストへの道のりは予想外のトラブル続きだった。一行は午前6時ごろ、標高8千350メートルに位置する「バルコニー」と呼ばれる通過ポイントに到達したものの、固定ロープが設置されておらず、約1時間の作業を強いられる。

 7時半ごろ、ベック・ウェザーズが目の不調を訴え下山を申し出た。

 しかし、ロブはこれを認めず、隊が下山する予定の14時まで、ここで留まるよう指示し、ベックもこれに従う。

 11時過ぎ、標高8千750メートルの「ヒラリー・ステップ」という通過ポイントにも固定ロープは設置されておらず、そこでも約1時間の予定外作業に入る。時を同じくして、登山者の増加に伴う渋滞が発生し、ここでAC隊のスチュアート・ハッチスンを含む顧客3人が14時までの下山は不可能とチームから外れる。実に賢明な選択だった。

 しかし、AC隊の他のメンバーは引き返す予定の14時から1時間後の15時ごろ、あいついでエベレストへの登頂を果たす。劇中に説明はないものの、ロブが時間の約束を反故にしたのは、顧客が大金を払い、かつ登頂達成を強く希望したためで、それはまた会社の実績、今後の顧客獲得にも直接つながるからだ。が、このビジネス優先の考えが悲劇を招く。

次の記事に続く 凍傷で顔がボロボロ、両足も一部欠損する事態に…登山家8人が死亡した「エベレスト遭難事故」奇跡的に生還した『医師が払った代償』(海外・平成8年)

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