安倍元首相銃撃事件を機に社会で注目されるようになった「宗教二世」問題。今だからこそ語れた当事者によるリアルな言葉とは……。
ここでは、毎日新聞取材班が宗教二世問題に関わる人々の苦悩、国や自治体の対応にまで迫った『ルポ 宗教と子ども』(明石書店)の一部を抜粋。キリスト教系新宗教「エホバの証人」の信者であり、かつては子にむちを打ったことのある母の悔恨を紹介する。(全3回の1回目/続きを読む)
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子を打つ手の痛み──良子の場合
宗教二世の取材を重ねる中で、二世の親がどんなことを考えているんだろうと気になっていた。取材班の高良はつてをたどって当事者を探すうち、我が子にむちを打ったことを悔やんでいる母親がいると聞いた。エホバの証人の「宗教一世」である良子(仮名)だ。大阪市内のカラオケボックスに現れた良子は穏やかで、物腰が柔らかい電話口の印象そのままだ。本当にこの人が自分の長男にむちを振るったのだろうか。高良はにわかには信じられないまま、良子の話に耳を傾けた。
大阪市内に住む良子(50代)は「エホバの証人」の元信者だ。一部の信者の間では聖書の記述に基づき、子どもに「むち」を打つことがはびこった。良子もかつて、息子に繰り返し手を上げたことを後悔している一人だ。
2歳の息子を膝の上でうつぶせにさせた。集会中にじっとしていなかった罰だ。本当に手を上げていいのか─。心は揺れたが、自分に言い聞かせた。「たたくことがこの子のためになる」。教えを思い浮かべ、小さな尻を平手で打った。息子の泣き声と手の痛みは、30年たった今も覚えている。