安倍元首相銃撃事件を機に社会で注目されるようになった「宗教二世」問題。今だからこそ語れた当事者によるリアルな言葉とは……。
ここでは、毎日新聞取材班が宗教二世問題に関わる人々の苦悩、国や自治体の対応にまで迫った『ルポ 宗教と子ども』（明石書店）の一部を抜粋。オウム真理教の教団施設にいた子どもたちを児童相談所で一時保護した経験を持つ男性が明かす“洗脳の根深さ”に迫る。（全3回の3回目／はじめから読む）
◆◆◆
殺人を正当化する教義
オウム真理教とはどんな団体だったのか、改めて振り返りたい。
教祖の松本元死刑囚は1995年3月、熊本県八代市に生まれた。生まれつき目が不自由で、幼少から通った盲学校を卒業した後、78年に結婚した。その後は、しんきゅう師や医薬品の販売で生計を立てていた。
82年ごろから仏教やヨガに傾倒し、「麻原彰晃」を名乗って東京都内でヨガ教室を開いた。84年に教団の前身「オウム神仙の会」を設立。雑誌や書籍に「空中浮揚」の写真を掲載し、「修行すれば超能力者になれる」などと説いた。オウム真理教に改称したのは87年だ。
松本元死刑囚は自らを最終解脱者だと称し、信者には「尊師」や「グル」と呼ばせて絶対的な帰依を求めた。教団は富士山総本部や東京本部のほか、大阪、福岡、名古屋、札幌、ニューヨークに支部を開設して勢力を急速に伸ばした。
その教えはインドの仏教やチベット密教、終末論などを取り入れ、独自の解釈を加えたものだ。警察庁や公安調査庁は教義の中でも、「ポア」と称して殺人さえも正当化する秘密金剛乗（タントラ・ヴァジラヤーナ）を特に危険視している。
教団は「現代人は生きながらにして悪業を積むから、全世界にボツリヌス菌をまいてポアする」などと無差別大量殺人の実行を宣言。菌の培養や化学兵器、核兵器などの開発を幹部らに指示して武装化を進めた。
教団は活動に敵対する動きを封じるとして、坂本堤弁護士一家殺害事件、松本サリン事件などを次々に起こした。その帰結が地下鉄サリン事件である。
