安倍元首相銃撃事件を機に社会で注目されるようになった「宗教二世」問題。今だからこそ語れた当事者によるリアルな言葉とは……。

 ここでは、毎日新聞取材班が宗教二世問題に関わる人々の苦悩、国や自治体の対応にまで迫った『ルポ 宗教と子ども』(明石書店)の一部を抜粋。二世信者としてオウム真理教に入信していた女性がかつてを振り返る。(全3回の2回目/続きを読む)

◆◆◆

ADVERTISEMENT

透明な存在だった──咲の場合

〈事件を機に声をあげなければと決意しました〉。咲(仮名)は安倍元首相の銃撃事件から約1カ月後、宗教二世としてツイッターにアカウントを開設し、自らの体験をつづっていた。

 オウム真理教の施設で修行に明け暮れた日々。脱会後も、周囲から冷たい視線を浴びて社会における居場所を失うつらさ。野口は生々しい記述に強く引き込まれた。

 咲はツイッターのDMを開放していなかったが、関係者を通じてメールで連絡を取ると、「取材を前向きに考えています」と返信してくれた。咲が最も警戒していたのは、職場など自身の周囲にオウム真理教にいたことが分かってしまうことだった。同居する家族が心配するため、自宅では電話取材にも応じられない。テキストメッセージで慎重に連絡を取りながら取材日時を決めた。周囲に話が漏れることがないように、毎日新聞社内で話を聞くことにした。

 待ち合わせ場所に現れた咲は、化粧やアクセサリーにこだわっている様子が一目で分かるおしゃれな女性だ。よくしゃべり、笑い、影を感じさせない。同世代の野口は「友達にいそうなタイプだ」と思った。ところが、取材に入ると「緊張する……」と口にし、表情は一転して硬くなった。咲は「伝えたいことや出来事をまとめてきました」とバッグからメモを取り出し、遠い日の記憶をたどり始めた。