脱会しても「地獄」
「命がけで、人生を全部かけて取り組んでいたものが悪だと言われた」。言いようのない喪失感と絶望にさいなまれた。親族にも「一族の恥。オウムに所属していただけで加害者だ」と邪険にされた。
別の高校に転入したが、勉強についていけない。教団をバカにする同級生の軽口には耳を塞いで耐えた。そんな中、おそろいのコートを着るほどの親友ができた。この人ならわかってくれるはずだと打ち明けた。「実は私、オウムにいたことがあって……」。すると、友達の母親が乗り出してきた。「もう付き合わないで」。何度も手紙を送ったが、返事は来なかった。
咲は声が出なくなった。声を出そうとすると涙が止まらなくなった。
高校を退学し、家に引きこもった。テレビでは事件が繰り返し取り上げられ、咲はそれを正視できなかった。母は仕事のため不在がちで、話す相手もいなかった。帰宅した母にしがみつき、怒鳴りちらした。「なんでこんなことになったんだ!」
自分の居場所がないことに耐えられなかった。「オウムに連れていって」と信者に頼み、再び教団に戻った。そこには必ず誰かがいて、声をかけてくれた。「話をしてくれる。ただ、それだけで良かった」と咲は振り返る。2年ほど通ったが、過去と決別しようと覚悟を決め、再び脱会した。それ以来、教団とは関係を断ち切っている。
気付いてあげられず
後悔し続けていることがある。仲良しだった同年代の二世信者の男性。咲は「人生を取り戻そう」とアルバイトをしながら通信制の短大で学んでいたが、男性は社会復帰できずに弱音を吐いていた。「何言っているの。頑張りなさいよ」。咲がそう言った数日後、男性は自ら命を絶った。
「教団に連れ去られる夢を見たんだ」。男性は追い詰められながら、最後まで咲に電話で話をしてくれた。「苦しみの深さに気付いてあげられなかった」。自分を責めても、彼の声はもう聞けない。
咲が一時期教団に戻ったことや、男性の死を思い起こす時、旧統一教会の信者を思わずにはいられない。「いろんな悩みや、親の影響で教団に入り、出るに出られない人もいる。生身の人間であることをわかってほしい」と思いをはせる。
