夫や子どもたちにモラハラをしてしまっていた――。
家庭という閉鎖的な空間で起きる“加害”は、他者の目が届きにくい分、気づくことも難しい。だからこそ、自身の“加害”に気づけた人の体験は、現在その渦中にいる人々にとって貴重な示唆を与えてくれるかもしれない。
ここでは、ノンフィクションライターの旦木瑞穂さんが、自身の過去の言動を反省する佐伯美幸さん(仮名、40代)に詳しく話を聞き、彼女の人生を振り返る。どうしてあの頃、「言葉の暴力」で家族を傷つけてしまったのか……。今、赤裸々に語ってもらった。(全3回の1回目/続きを読む)
◆◆◆
結婚10年目の危機
東北在住の佐伯美幸さんは、33歳の時、小さな工場を経営している5歳上の夫の帰りが遅くなる頻度が増えてきたことが気になっていた。そして次第に、入浴する際もスマホを脱衣所まで持っていくようになったため、「まさか?」と思い、こっそり入浴中の夫のスマホを見てみた。
パスワードは知っていたため、夫のスマホは簡単に開いた。
その瞬間、自分の予感が正しかったことを思い知る。
「こないだ楽しかったよ」「また会いたい」「大好き」などという知らない女性からのメールと共に、その女性のものと思しき数枚の裸の写真を見つけたのだ。
入浴を終えた夫を待ち、佐伯さんはスマホにあったメールを見たことを伝え、どういうことなのか問いただした。
すると夫は申し訳なさそうに言った。
「家族を大切に思っている。でもきみが僕のことを大事にしてくれないから、大事にしてくれる人になびいてしまった。すぐに別れる。ごめん」
車やバイクが趣味の夫は、家族と出かけることも多かったが、「バイクで景色を見に行く」と言って1人でふらっと出かけることもあった。相手の女性もバイクが趣味で、その時に出会ったのだという。彼女は佐伯さんより2歳下で派遣社員。夫曰く、「笑顔が多くて文句を言わない人」。
もともと看護師だった佐伯さんは、結婚して2人目を出産した後、夜勤のある看護師の仕事と2人の子育ての両立は難しいと思い、専業主婦になった。
当時はまだ息子が8歳、娘が4歳になったばかり。
しおらしく頭を垂れる夫を前に、佐伯さんは夫の言葉を信じ、子どもたちのために関係修復に努めることにした。