大谷翔平ら日本人メジャーリーガーの活躍がテレビのニュースを埋め尽くす一方、インターネットやSNSの世界では「野球部はクソ」という感覚が加速しているといいます。この「ねじれ」はいかにして生まれたのでしょうか?

 もともと本好き、映画好きの〈文化系〉ながら中高大で〈体育会系〉の経験を重ねた中野慧さんによる話題の著書『文化系のための野球入門 「野球部はクソ」を解剖する』(光文社)から一部を抜粋します。(全3回の1回目/続きを読む

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東京朝日新聞の「野球害毒論」キャンペーン

 もっとも、この「野球害毒論」キャンペーンは、東京朝日新聞の取材手法にも問題があった。連載第8回では早稲田野球部の元エースで、連載当時は早稲田の講師を務めていた河野安通志が「旧選手の懺悔」ということで登場し、「野球を始めたことを後悔している」との談話が紙面に載った。ところがこれを見た河野が猛抗議したため、本人が執筆した寄稿文が第13回に掲載されている。

©AFLO

 河野いわく、取材では「野球のさまざまな弊害は認めるが、メリットもたくさんある。自分は早稲田に入って野球ができたことを感謝している」という趣旨のことを語ったが、記者によって「野球を始めたことを後悔している」というニュアンスでまとめられてしまったのだという。

 現代でも新聞記事は取材をもとに記者の言葉でまとめ、取材対象者に原稿確認の機会を与えないことが多い。どんな内容を強調し、どう読者に見せるかは記者の倫理観にかかっている。この記事の場合、記者の側に野球批判へのこだわりが強すぎ、河野に取材した内容を相当曲解して書いてしまったのだろう。「野球害毒論」には本質的な批判もあったが、基本的な事実誤認などのフェイクニュースも紛れていた。そのため、野球界の側からは激烈な反論が巻き起こったのである。