大谷翔平ら日本人メジャーリーガーの活躍がテレビのニュースを埋め尽くす一方、インターネットやSNSの世界では「野球部はクソ」という感覚が加速しているといいます。この「ねじれ」はいかにして生まれたのでしょうか?
もともと本好き、映画好きの〈文化系〉ながら中高大で〈体育会系〉の経験を重ねた中野慧さんによる話題の著書『文化系のための野球入門 「野球部はクソ」を解剖する』(光文社)から一部を抜粋します。(全3回の2回目/続きを読む)
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『大正野球娘。』の現実
2009年に放映された『大正野球娘。』というアニメがある。ネットの野球ファンたちから「大正義野球娘」と呼ばれているほどの人気作だ。時代は大正、高等女学校に通う女子生徒の小笠原晶子が、許嫁に「女性に学歴など不要」「主婦として家庭に入るべき」と言われたこと(当時の男性のあいだでは一般的な観念だった)に反発し、親友の鈴川小梅を誘って女学校で野球を始め、アメリカ人教師のサポートもあってチームを結成、やがて男子の野球チームに挑んでいく、という内容である。
現実はどうかというと、明治末期からは各地に高等女学校が整備されはじめ、大正期に入ると大正デモクラシーの自由な気風のもと、職業婦人も登場したことから女子の進学熱が高まっていった。
現代日本の野球界と大きく違うのは、「日本野球の父」こと安部磯雄のような野球界の実力者が、「女子の体育を奨励すべし」と熱く説いていたことである。安部は戦前日本における男女同権論の男性側オピニオンリーダーであったこともあり、「女子もまた遠慮なく運動を試みるがよいのである。馬に乗るもよし、自転車に乗るもよい。野球でもボートでもかまわぬ。自分はいかなる遊戯をも女子に勧めたいのである」と述べている。
