再出店が困難であろう立地の店舗を一斉に失う天下一品のダメージは、「たかが数店の閉店」で片付けられないほどに深いだろう。

新宿西口はいくつものラーメン店がひしめく激戦区だ
激戦区の新宿で長らく営業してきた店舗も閉店してしまう

  今回の記事を書くために、閉店する新宿西口店へ足を運んだ。辺りは都内でも屈指のラーメン激戦区で、並の店なら逃げ出したくなるほどの競合がひしめく。この中で、天下一品はおおよそ20年にわたって鎮座してきた。この日も行列になるほど人気で、20分待って、やっと入店できた。

 天下一品のこってりスープは、“飲むスープ”ではなく“食べるスープ”というキャッチフレーズに相応しい濃厚さを誇る。ご飯や唐揚げとの相性も抜群——なのだが、店の壁やテーブルが至る所で古びており、カウンター席は肘が当たるほどに狭いのが気になる。

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味は良いのに、細かい部分が「もったいない」

 一つ気になると、いろんなことが目に付く。例えばメニューでは「どのセットが人気なのか」「なぜ天下一品のこってりスープは美味しいのか」といった訴求がきわめて少ない。初心者には優しくないかもしれない。昨今のチェーン店にしては珍しくキャッシュレスに対応しておらず、レジにたどり着くまでも行列。その並ぶ時間で、こってりスープの余韻も冷めてしまう。

直営の高円寺店は、故障した自動ドアがそのままになっていた

 「直営ではないフランチャイズ店舗だからかな?」と思いきや、都内の直営店でもキャッシュレスは非対応。ある店舗では故障した自動ドアがずっとそのままになっていたり、いまひとつ清掃状況が良くなかったりする。全体的に直営・フランチャイズを問わず「昔ながらの古びたラーメン屋」のような佇まいの店舗が多い印象を受けるのが天下一品である。

三田製麺所は初心者にも優しい店づくり

 比較対象として、閉店する天下一品店舗の多くを運営するエムピーキッチン系列企業が手掛けるつけ麺専門店「三田製麺所」を見てみよう。

三田製麺所の恵比寿店。昨年までこの場所に天下一品の恵比寿店があった

 もともと天下一品の恵比寿店だった場所にある三田製麺所の恵比寿店を訪れると、一定の清潔感があって、パーソナルスペースを保った状態で過ごせる。メニューも豊富ながら注文画面はシンプルで、店内の巨大看板でつけ麺のスープが「3種類を炊き出し、抽出して合わせている」と説明されているため「迷ったら特濃つけ麺・つけ麺を頼んだらいいのか!」と、初見の客でもすぐに分かる。スマホオーダーに対応し、キャッシュレス・セルフレジで会計のストレスも少ない。天下一品と比較して、こちらの方が「今どきの普通の外食チェーン店」だと感じる。

 こうして見ると、同じ「チェーンのラーメン店」でも、店づくりが全く違うことが分かる。それでも、エムピーキッチンにとっては「天下一品のフランチャイズ加盟店」「三田製麺所の本部・直営店」の両刀で、収益をあげていく道もあったはずだ。今回、なぜ天下一品から“離反”したのか。