こうして見ると「天下一品・天一食品商事」と「三田製麺所・エムピー」の両陣営は、あまりにも社風が離れている印象がある。かつ、エムピー側が三田製麺所のフランチャイズ本部として得た「今どきの外食企業」としてのノウハウを、師匠筋である天下一品のフランチャイズ加盟店で生かし切るには、何らかのハレーションが起きる可能性が高い。偉大な師匠(天下一品)に付き従ってきた弟子(エムピー)が、自ら軍団(フランチャイズ)を率いるようになり、外食企業の経営者として違った地平線を見渡すようになってしまったようなものだ。

天下一品は「ジリ貧」になる可能性も?

 さて、今後の天下一品と三田製麺所(エムピー)はどうなっていくのだろうか。

 唯一無二のこってりスープがある限り、天下一品ブランドが消えることはまずないだろう。直近では、2024年に閉店した五反田店の代わりを担うべく、別のフランチャイジーが同エリアで新店をオープンした。ここから反転攻勢で、再び都内での店舗増を果たす可能性は十分にある。

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 ただ、順調に拡大できるかは正直分からない。ひと昔前なら「こってり一本足打法」で十二分に勝てたはずだが、最近は横浜家系や博多豚骨系を中心に「魁力屋」「山岡家」「来来亭」「豚山」といった満足感が高い「ガッツリ系」のチェーンが勢力を拡大している。「濃い味・ガッツリ」を求める消費者は、単価1000円をゆうに超える天下一品を、むしろ選ばないのではないか。天下一品は今後、過去の全国展開時にはなかった、濃い味・ガッツリチェーン同士の競争に巻き込まれていくだろう。

競合と比較すると、どうしても高く感じてしまう価格設定という点は否めない

 三田製麺所を展開するエムピー側は、グループの経営目標として「2025年に100店舗&上場達成」を掲げているが、三田製麺所や「渋谷餃子」などのブランドを含めて、ホームページ記載分だと現状は60店少々しかない。2024年に閉店した天下一品の都内6店のうち、5店(歌舞伎町店、池袋東口店、恵比寿店、八幡山店、多摩ニュータウン店)を三田製麺所へ転換したように、6月に閉店する都内7店舗(首都圏全体で10店舗)も、同様に三田製麺所やグループの他ブランドに転換される可能性は高いだろう。

「いきなり大量閉店」は今後も起こり得る

 外食業界以外でも、九州の一部でコンビニ「サンクス」のフランチャイズ加盟店が100店規模でローソンに転換するなど、フランチャイジーの“乗り換え”事例は意外と多い。本部と関係性が悪化し、「ほっかほっか亭」とのフランチャイズ加盟企業がいっせいに契約解除→新ブランド「ほっともっと」立ち上げに至った一件を覚えている方も多いだろう。

京都市内の天下一品総本店。全ての歴史はここから始まった

 このようなケースでは、本部が「裏切りやがったな!」とばかりに、加盟企業を相手取って訴訟を起こすような事例が絶えない。しかしフランチャイジー側も、先細りするブランドから脱却、生き残るため乗り換えに踏み切ったわけで、リスクは百も承知のはず。今後も乗り換えはあらゆるブランドで起こり得るだろう。

 推計6000億円というラーメン店市場は、底支えしてきた個人店が次々と閉業しており、次なる局面はチェーン店同士の熾烈な競争だろう。もはや「美味しい」だけではなく、ビジネス面での強みもないと生き残れない時代がすぐそこまで来ている。愚直に昔ながらを維持する天下一品と、ビジネスに長けたエムピーキッチン・三田製麺所がどのように戦っていくのか、目が離せない。

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