「徒弟制」と「ビジネス」の相性が悪かった
冒頭で示した通り、同社からの回答は得られなかったため真相は不明だが、推察するに近年の経営姿勢からは「フランチャイズの大量離脱があっても、仕方ないのでは?」と思わせる動きが、多々あった。
まず、一般的なフランチャイズ制度について、今更ながらおさらいしておこう。直営店の場合はチェーン店の本部が運営、利益を得る。加盟店は、本部と契約を結んだ企業(フランチャイジー)が運営し、利益は基本的にフランチャイジー側が得るのだが、本部も慈善事業ではないので加盟店から「ロイヤリティ」(手数料。一般的に売り上げの3~10%)や「使用食材の販売」などで利益を得ている。また、加盟店のメニューや店づくり、経営方針は「基本的に本部の言いなり」だ。
話を戻す。天下一品を運営する天一食品商事と、フランチャイズ加盟店として天下一品との関係を保ちつつ、同時に三田製麺所も展開してきたエムピー側は、両社の持つ経営上のノウハウや、フランチャイズ加盟店との関係で大きく違う印象を受ける。
まず天下一品では「こってり」の注文が全体の7割を占めている。他がマネできないメニューの存在は、誰もが認める安定経営の武器だ。ただ、こってりスープの人気が強烈すぎるのは、逆に弱みにもなり得る。新規顧客層がこってりスープにハマるきっかけを作れなければ裾野を広げられない。先に触れたような「昔ながらのラーメン店」的な店作りも含めて、よくも悪くもコアなファン頼み、といった印象を受ける。
それでも天下一品は、フランチャイズ加盟店も含めて、200店以上まで店舗数を増やしてきたのは素直に評価できる。まとめると、秘伝のスープ誕生までのストーリーや、創業者のカリスマ性も含めた「徒弟制型フランチャイズ」と例えればわかりやすいだろうか。
一方のエムピーキッチンは、天下一品のフランチャイズ加盟店として会社の基礎を築きつつ、2008年に1号店を出店した独自ブランド・三田製麺所が難なく50店を突破、自らフランチャイズ加盟店を募るまでになった。
三田製麺所の店づくりは、外食チェーンらしい「癖がなく、入りやすい店」と言える。ラーメン店を支える「成人男性」以外も入りやすく、こってりスープよりも好みが分かれないメニューのつけ麺は、幅広く顧客層を獲得しやすい。
SNS施策などを基に「どれくらいコアユーザーを獲得できているか」などの分析を行うなど、今どきの外食企業に必要なブランディング・マーケティングの基本も押さえている。もともとライバルが少ない「つけ麺特化」や、粉モノのプロという印象を受ける「製麺所」という屋号(先達には「丸亀製麺」がいる)といった戦略からも、したたかな計算が垣間見える。まとめると、エムピー側の戦い方は、徒弟制のような天下一品と比べると、今どきの外食企業型と呼べるものだ。
ゼンショーで「すき家」など約2000店の出店に関わった村上竹彦氏(現:エムピーキッチンホールディングス会長)や、のちに「資さんうどん」を全国進出に導く佐藤崇史氏を社長として招聘する(退任済、現在は資さん社長)など、人材登用の面でも一族経営を続ける天下一品の人材登用と対照的だ。

