宮田 私もスケザネさんと同じで、他人が頑張っているところを見て励まされるという心理がよくわかっていないところもあるんですが、単純に「推し」がいたほうが人生楽しい。その子を好きじゃなかったら生まれ得なかった色がひとつ生まれるから。

 現代はいろいろと辛いことも多いし、推しがいて、次のイベントがあるからそこまで頑張って生きよう、みたいなのは手軽な目標としてあると思う。人生は辞められないけど、だれかに人生を仮託することはできる。

 そんなふうに考えて生きてきましたけど、ファンの方々からは「愛萌ちゃんってマジでわかんないよね」と言われます。私はなるべくわかりやすく感情を抽出して伝えるようにしているけれど、わからないと言われることは本質を突かれている気がして面白い(笑)。

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宮田愛萌さん

 さっきの言葉の罠の話じゃないけれど、私は人前でなるべく「大衆的な」言葉を使うように心がけています。わかりやすい言葉を使うことは一種の「思いやり」だと思っているし、わかりやすい言葉だからこそ、どういう場面でどう使うかでその人の個性が出やすいと感じています。

「記号接地」しない言葉の使い方をしていないか?

スケザネ なるほど。僕は、使いやすい便利な言葉ほど、「記号接地」しない使い方をしていないか警戒しています。近年ホットな「記号接地問題」は、AIは言葉のひとつひとつに身体感覚や経験が紐づいていないので、それらしく振る舞っても「意味」を理解しているわけではないという問題です。

 でもこれって、僕たち人間にだって起こること。実感を伴わないまま「みんながこう語っているから俺もこの言葉を使おうかな」みたいな記号操作をしばしばしてしまう。僕だって、書評を書くとき最大公約数に向けて、つい借り物の言葉や抽象的な言葉で書き流してしまうことがあります。

 でもこの往復書簡を通して、自分はどう思っているのか、何を感じているのか? 「手触りのある言葉のみで紡ぐ」という原点に、改めて立ち返る機会になりました。たまにぎょっとするような言葉が剛速球で飛んできましたから!

宮田 私はものを書くとき、私がどう思うか、面白いと思うかが大事で、正義だと思ってますから。私の主観を全力で投げるのが、書くうえでの誠実な態度だろうって(笑)。

スケザネ そんな言葉に誘い出されて、コンプレックスや家族の話をだいぶ赤裸々につづりました(笑)。

宮田 ふふふ。でも読者には、全然気負わずに「へぇ、そうなんだ」って気軽に読んでもらいたいですね。晴れ姿を着た言葉に溢れているので、とくに人生の節目に読んでもらえたらけっこう元気でると思います。

スケザネ お祝いにもぴったりな晴れやかな一冊ですから、ぜひ多くの人に手にとってほしいですね!

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イベント
『晴れ姿の言葉たち』『ケアの物語』W刊行記念
「推しとケアと、言葉の力」
宮田愛萌×渡辺祐真×小川公代
7/ 5 (土)18時~19時30分 青山ブックセンターにて
申し込み
https://aoyamabc.jp/collections/event/products/2025-7-5

『晴れ姿の言葉たち』

晴れ姿の言葉たち

宮田 愛萌 ,渡辺祐真(スケザネ)

文藝春秋

2025年6月25日 発売

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