子育ての責任は母親にあるのか

 このように、母親に対するガスライティングには、「子育ては母親がするもの」「子育ての責任は母親が負うもの」という無意識の偏見が関係しています。

 実際、2020年のOECD(経済協力開発機構)のデータによると、日本の場合、女性が家事育児に携わる時間は、男性の5.5倍にものぼるそうです。

 家事や育児は、家族の誰かがしなくてはならず、「誰もしない」という選択肢はありえません。それなのに、育児のために時短勤務をしている女性が(おそらく男性も)ほかの人より早く退勤する場合、どんなに仕事をしっかりこなした後だとしても「自分は周りの人に迷惑をかけている」という罪悪感を持たされてしまうことは珍しくありません。

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 もちろん、与えられた仕事はまっとうする責任がありますし、周りの人へのリスペクトや感謝の気持ちは大切です。しかし、男性の5.5倍もの家事や育児を「女性が担うもの」という無意識の偏見のもと無償で担わされている女性が、そのために早く帰ることに対して、これほどまでに罪悪感を持たされる必要はあるのでしょうか。

 日本では、明確に女性を差別するような制度は減っています。しかし、「家事や育児は女性が担うべきもの」といった無意識の思い込み(アンコンシャスバイアス)は根強く、それが男女の家事・育児時間の大きな差や、時短勤務に対して女性が罪悪感を抱えさせられるといったガスライティングにつながっているように思います。こうしたガスライティングが、男性に対してもないわけではありません。しかし、頻度としては女性の方が圧倒的に高いことを考えると、やはり背景にはジェンダー不平等があるといえるでしょう。

 さらに、母親に対するガスライティングの行為には、「マムシェイミング(MomShaming:母親に恥を感じさせること)」という名前がついています。子育てについて、母親が何をしても、何を選択しても、なぜか責められるという現象のことです。

 出産や子育てに関しては、特に賛否両論が分かれることが多く、どちらを選んでもその選択を批判されることが少なくありません。例えば、「自然分娩で陣痛を感じて出産する方が、子どもへの愛情を感じられる」と言われるかと思えば、「麻酔を使う無痛分娩を選ばないなんて非科学的」と批判される。