夢が覚めたから、殺した

 ホームレス同然の田中さんを、なにを思って養ったのか。そこに、淡い期待はなかったのだろうか。もしもそれがあったのだとすれば、ある意味、見返りを求めていたことにもなるわけで、その年齢を考えればいささか大人げない印象もありはする。美津代は「いつか」という夢さえ見られていればよかったのかもしれない。一緒になることが叶わずとも、ずっと、田中さんに嘘でも夢を見させてもらえれば、それでよかったのかもしれない。

 最後に美津代は言った。

「なら、もう仕方ないね」

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 夢が覚めたから、殺した。

次の記事に続く 「愛していない女の子供はいらん」夫の浮気が原因で流産することに…40歳女性が「あまりにも冷淡な夫」に包丁を突きつけるまで(平成4年)