「愛していない女の子供はいらん」。なぜ妻は夫に刃を向けたのか? その背景には、浮気性の夫との間にできた子どもの「流産」があった……。平成4年におきた事件の顛末を、事件サイト『事件備忘録』を運営する事件備忘録@中の人の新刊『好きだったあなた 殺すしかなかった私』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全4回の3回目/続きを読む)
足立区の女
平成4年10月、東京地方裁判所はある女に対して懲役3年・執行猶予4年の判決を言い渡した。
女は、愛する男を殺害しようとしたものの思いとどまり、我に返るや救命を施し、駆け付けた警察官に自らの犯行を告白した。
とはいえ、男性のケガは胸部刺創および左気胸、全治2か月と決して軽いものではなかった。にもかかわらず、女は社会での更生の機会を与えられた。
つかめなかった幸せ
女は足立区で暮らす笹岡アヤ子(仮名/当時40歳)。被害者はアヤ子の夫だった。アヤ子は平成元年に夫と知り合い、その後1年ほど交際して平成2年4月に結婚した。ところが幸せなはずの新婚生活は長くは続かなかった。平成4年ごろになると、夫はたびたび家を空けるようになる。
夫の外泊に心を痛めていたアヤ子だったが、平成4年、妊娠したことを知ってこれで夫も落ち着くのではないかと思って、それを夫に告げた。しかし夫の反応はアヤ子が望んだそれとは大きく違い、冷たくこう言い放った。
「愛していない女の子供はいらん」
どうやらアヤ子は、このときまで夫はただ遊び足りずにいるだけだと思っていたようだが、ここではたと、「夫は浮気をしているのでは? よそに女がいるのでは?」と思うようになった。以降、ことあるごとに夫にそれを問い詰めるようになってしまう。
こうなると悪循環でしかなく、夫はそれを嫌がり、アヤ子が詰問するたびにうんざりしたような顔をして家を出るようになってしまった。一方のアヤ子も、真実を知りたい気持ちもあったがそれを問い詰めれば夫に家を出ていかれてしまうため、聞くこともできなくなってひとり悶々とする日々を送っていた。
そしてそのストレスは、アヤ子に辛い現実をもたらすことになる。