「俺はお前を殺してもどうもない。幾ばくも無いお前の残り少ない人生なんか、いらないんだ」
かつてヒモ同然だった男を、社会復帰させることに成功した女性。しかし2人を待ち受けていたのは「最悪の未来」だった……。平成11年におきた事件の顛末を、事件サイト『事件備忘録』を運営する事件備忘録@中の人の新刊『好きだったあなた 殺すしかなかった私』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全4回の2回目/続きを読む)
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一緒に生きていくつもりだったのに…
美津代は田中さんの胸を押し、店の座敷に置いてあった布団に突き飛ばした。田中さんも激高し、すぐに起きあがったかと思うと反対に美津代を突き飛ばした。そして、美津代の口をふさぐとその首を絞めてきたのだ。
美津代は田中さんをはねのけて立ち上がると、思いの丈をぶちまけたのだ。それは、心の叫びだった。ここで、なにもかもが決まる。これまで心のどこかで、いつか終わると思っていた。一方で、嘘みたいだけど田中さんとふたり、一緒に生きていく人生も夢見ていた。
それが、いま終わろうとしていた。
許すことはできない、そう声を震わせた美津代に対し、田中さんは言った。
「俺はお前を殺してもどうもない。幾ばくも無いお前の残り少ない人生なんか、いらないんだ」
女に食わせてもらって生きながらえてきた男が、絶対に、言ってはならない言葉だった。