事件に残されたナゾ

 そもそもあの夫の言葉は本当だったのだろうか。

 愛していなければ一緒になどいない……いや、アヤ子にとったら本当でも嘘でもそれはどうでも良かったのだろう。嘘でもなんでも、愛していると言ってくれさえすれば良かった。アヤ子は、殺してでも手放したくなかった男だったはずなのに、離婚に応じると言った。夫がまだ離婚の意思を示していないにもかかわらず。こうまでせねば、自分の気持ちにケリをつけられなかったのかもしれない。

 しかしそれならば、なぜ思いとどまったのか。男の本気かどうかもわからない言葉にハッとさせられてどうする。そもそも、本当かどうかもわからない「愛している」のひとことでそれまでの仕打ちが帳消しになる、その程度のことならばなぜ殺そうなどと思ったのか。

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 うんざりしながら、呆れながら、バカじゃないのかと思いながら、それでもなぜか切なくなる。

──愛しているから殺そうと思った。

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